ホラー作家・岩井志麻子が語るオトコとオンナの“恐怖のツボ”|夏のホラー部第3回

公開日:2015/8/22

――このシリーズだけで約700話もの怪談を書かれていますが、ネタ集めに苦労は?

岩井:苦労はしますが、大抵向こうから寄ってきてくれるんですよ。わたしの方でおいでおいでしてるのかも知れませんが。怖い話はみんな好きなので、集めていると輪が広がっていくんですね。

――岩井さんの怪談には、とんでもない嘘つきや見栄っ張りがよく登場しますよね。最新刊の『現代百物語 妄執』にも、体験していない鉄道事故のことを語る老人とか(「鉄道員の思い出」)、リビングはぴかぴかなのに他の部屋はゴミ屋敷になっている女とか、インパクト、のある方々が登場します。その辺が岩井さんの恐怖のツボでしょうか?

岩井:わたしもしょうもない嘘をよくつく方なんですが、必ず目が泳いでキョドるから、一発で嘘だと分かるんです。一周まわって正直者(笑)。知り合いに「わたしは絶対嘘をつかない、嘘なんか大っ嫌いだ」って自信満々に宣言してる人がいて、でもその人はとんでもない嘘つきなんです。ああいう感覚はよく分からないし、怖いなと思いますね。

――嘘の恐怖といえば、このシリーズ中に何度も登場する元マネージャーの“Lさん”。相当スゴい方だったようですね。

岩井:押しかけマネージャーだったんです。自分は元ホリプロで、有名出版社で働いていたこともある、マネージャーにしてくれというから、それを信じて雇ったんですよ。まさかいい大人が真顔で嘘をつくとは思わないですから。ところが、あまりにも仕事ができないわけ。ダブルブッキングしたり、やっちゃいけないミスをばかばかやる。しかも全部相手のせいにするんです。

――そこで妙だなとは?

岩井:ちょっと妙だと感じても、人間って自分で自分を納得させようとするんですよ。本当はできる人なんだと。高いお金を払っているのもあって、騙されたと思いたくなかったんでしょうね。ダイナミックな嘘をつく子で、会話に出てきた有名人を全部自分に結びつけるんです。「××さんは元カレなの」「××さんとは同棲してた」「××さんには羽田でナンパされた」って。それがあまりに堂々としていて揺るぎないんで、みんな信じちゃうんですよ。しかも証拠の写真とかは一切残さない。ずぼらなようで周到なんですよ。

●なんのためにそんな嘘をつくの?