異性と文通するだけで「堕落の縁」「不良」!? たった100年で激変した人々の悩み

社会

公開日:2015/8/24

 新聞にはたいてい読者の相談コーナーがある。三面記事に載るほどでなくとも、リアルな老若男女の心の叫びを読むことができ、現代社会の暗い影が映しださせれている。また、何と言っても「あるある」感に満ちた身近な問題が満載で、自分が助けられることも多い。新聞を広げたときには外せないコーナーのひとつだ。

 そんな中、このほど読売新聞が、人気コラム「人生相談」を『きょうも誰かが悩んでる 「人生案内」100年分』(読売新聞生活部/中央公論新社)という一冊の本にまとめた。本書の注目すべき点は、コラムがスタートした大正3年より100年分の相談内容から厳選収録されていること。時代を超えて人々の悩みを知ることできるのだ。

advertisement

 平成の世では、息子のひきこもり、親の介護、SNSでのトラブルなど、やはり聞き慣れた問題が多い。しかし、戦後間もない頃には社会的地位の低かった女性の苦悩、戦争がもたらした家族の悲劇などが並び、さらに遡って戦前には身分違いの恋を嘆く相談も。現代であれば、科学・文明の発達、倫理観の変化、それらによる社会制度の整備などで事情が変わり、こんなことで悩むなんて…と思ってしまうものもちらほら。たった100年でも時代の変化を痛感させられる。

 例えば、恋愛事情。ときは大正12年7月28日。ある女学生が思い余って投稿したのは、恋の相談。ふとしたきっかけで異性と文通を始めたものの、手紙がたくさん届くものだから家族から変な目で見られるようになったという。心配になって返事を出さないようにしてみたら、今度は学校内宛で届くように。教師から手渡されるものだから、「先生に知れると不良と認められましょう」と困ってしまい、交際を断りたいと思っている。とはいえ、その異性を恋しくも思っている、という内容だ。

 大正期の女学生というと『ごちそうさん』で杏が演じため以子や、『花子とアン』で吉岡由里子が演じたはなを思い出した。ドラマでは思春期を思いきり謳歌しているように見えたが…。異性との交際くらいいいじゃないか、そもそもメールならバレないのに、などとつい思ってしまった。

 この女学生に対する回答が、これまた現代を生きる私には理解不能だ。「あなたはすでに堕落の淵に一歩も二歩も入っているのである」と。いやいや、そんな大げさな。そんなわけで、回答者は親や教師に打ち明けて相談することを勧めている。

 本書によると、当時の民法において、男は30歳、女は25歳に達するまで結婚には親の同意が必要だったそうだ。この年を越えれば、親の同意なしに「自由結婚」ができる。が、まだ10代の女学生が親の知らぬところで男と文通するのは罪とみなされたわけだ。なんて不自由な恋愛。じゃあ、きっとみんな「自由結婚」を望んでいたのだろうと思いきや、それがそうでもないらしい。大正11年、22歳の女性は、恋に落ちた男性と一緒になりたいけれど、親が許してくれない、でも「自由結婚」はいや、なんて相談をしている。親の決めた相手と結婚することが常識であり、そこから外れるのは不道徳なことと考えられていたのだ。現代との恋愛観・結婚観の違いに驚かされるばかりだ。

 一方で、平成25年に70代男性が投稿した恋愛相談は、非常にアグレッシブだ。妻が他界し、再婚を考えて十数人の女性と交際。その中でも心優しい女性にひかれ彼女を本命としていたが、複数の女性と関係を持っていたことがバレてしまったと。ほかの女性との関係を絶つも、本命の女性は怒り心頭。どうすればよいかと途方に暮れている。

 これには、回答者の精神科医・野村総一郎氏もまず年齢を顧みない元気な行動を「その意欲が素晴らしい!」と、心から褒め称えてしまっている。さんざん褒めた挙げ句、誠実な態度を彼女に徹底的に示すしかない、という回答だ。団塊の世代が65歳以上となり、急速な高齢化が問題となっている昨今だが、恋に年齢は関係ない。“病は気から”というが、自由な恋愛は気持ちを高めてくれるだろう。なんなら、老化さえ押し止めてくれるかも? 意欲が高まって、今後、恋も仕事も現役という元気なご老人が増えてもおかしくない。

 このほかにも、昔と今の違いにあ然としてしまう相談&回答が。戦前、戸主が絶大な権力を持つ「家制度」で虐げられていた女性に対し、回答者はなぜかお手上げ状態。しかし、近年では夫が暴力を振るうものならDVとして堂々と訴えるようアドバイスされている。また、昭和61年の「男女雇用機会均等法」の施行後だが、まだ定着していなかった平成2年において、産休明けで解雇同然になったことを相談するものがある。その一方で、平成25年の相談では、30代女性が昇進したものの仕事量が増え、責任の重い仕事を要求され、帰宅するとクタクタで辛いと訴えている。

 未来はわからない。100年前には大問題だったことが、今では解決できるようになっていたり、むしろ何でもないことになっていたり。もしくは、新たな問題に替わっていたり…。ともかく、現在の私たちが藁にもすがる思いで投稿した相談が、いつの日か“珍相談”と笑い飛ばされる日が来るといいなぁ。

文=林らいみ