被害者遺族に代わって助太刀人が加害者を成敗「仇討死刑」で、遺族の感情は報われる? マンガ『助太刀09』が描く世界

マンガ

公開日:2015/8/26

 今年6月に発売された『絶歌』(太田出版)。「神戸連続児童殺傷事件」の犯人である、元少年Aの手記だ。ネット上では、この出版をめぐり、さまざまな論争が繰り広げられた。そのなかでも一際目立ったのが、「加害者ばかりが守られている」という意見。その是非は置いておくとして、確かにこの国では、遺族がないがしろにされている感がある。戻ってこない被害者、やり場のない犯人への憎しみ…。遺族の気持ちを考えると、胸が痛む。

助太刀09』(岸本聖史/スクウェア・エニックス)は、そんな被害者遺族を救うべく戦う、特別司法警察 特殊執行隊、通称「助太刀人」の生き様を描いたマンガだ。

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 舞台となるのは、「仇討死刑」が制定された日本。この刑法は、遺族からの申し出があった場合、「被害者が殺害された方法とまったく同じ手段で、死刑囚を処罰できる」というもの。そして、遺族に代わってその仇討ちを成すのが、助太刀人たちだ。

 遺族の反応は実に様々。泣きながら仇討ちの行方を見守る者、思わず目を伏せてしまう者、そして、犯人への憎悪に呑まれ「もっと痛めつけろ!」と怒り狂う者…。そんな遺族の思いに共感し、助太刀人たちは死の鉄槌をくだすのだ。

 仇討ち執行には、もちろん危険も伴う。「仇討場」となるのは、人口減で過疎化が進み、廃墟となった街。四方を外壁に囲まれ完全に閉鎖された街のなかで、助太刀人は執行対象者と一対一で向き合う。しかも、助太刀人に許されているのは、「加害者が被害者を殺害した方法」と同じ手段のみ。それ以外の方法で刑を執行することは許されない。その一方で、執行対象者は、ありとあらゆる手段で抵抗する。なにせ、助太刀人を「返り討ち」にすることができれば、恩赦3年と安楽死の権利が得られるのだ。

 そんな危険をおかしてまで、どうして助太刀人は仇討ちに身を投じるのか。それは、彼らもまた、犯罪の被害者や遺族だからである。主人公・山岸優二をはじめ、皆なんらかの事件に巻き込まれた過去を持ち、犯罪というものを憎んでいる。そして、それゆえに、遺族の気持ちに強く共感できるのだ。だから彼らは、なんら迷いなく犯罪者を殺すことができる。絶望の淵にいる遺族を救うために。それが、彼らにとっての正義なのだ。

 「なんて残酷な…」。本作を読んで、そんな感想を抱く人も少なくないだろう。けれど、「犯人を決して許せない」「この手で犯人を殺してやる」と思う遺族の気持ちを否定できるだろうか? 個人的には、その自信がない。もしも、理不尽な理由で大切な人の命を奪われてしまったら、犯人には同じ苦しみを味わわせてやりたい。そう思ってしまうかもしれない。

 仇討死刑――被害者が殺害された方法とまったく同じ手段で死刑囚を処罰できる、新しい死刑のカタチ。本作で描かれるそれが、現実のものとなることはないだろう。しかし、残酷な犯罪が増える一方で、被害者がまったく救済されていない事実を思うと、いつ現実になってもおかしくないような気もする。そして、それを間違いだと言い切れる人は、はたしてどれくらいいるのだろうか。

文=前田レゴ