中村文則、西加奈子が語る、ピース又吉のイイ話

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2015/8/26

「西加奈子さんの『サラバ!』を読み終わったあとに、僕は自分の小説『火花』を書き、そのあとに、中村文則さんの『教団X』を読んだ──
最強の2冊に挟まれて書けて幸せだった」と弊誌連載の中で語った又吉さん。西さんと中村さんは、又吉さんがこよなく愛し、尊敬する作家。実は以前から仲良しの三人。
気ぃ遣いの又吉さんがいないところでしか話せない、又吉さんのイイ話、そして今、彼に贈りたい言葉とは──。(ダ・ヴィンチ2015年7月号掲載)

構成・文=河村道子/写真=江森康之

西 加奈子
にし・かなこ●1977年テヘラン生まれ。2004年『あおい』でデビュー。05年『さくら』が大ベストセラーに。07年『通天閣』で織田作之助賞、13年『ふくわらい』で河合隼雄物語賞、15年『サラバ!』で直木賞を受賞。著書に『きいろいゾウ』『炎上する君』『漁港の肉子ちゃん』『円卓』『地下の鳩』『ふる』『舞台』など多数。

西 私が又吉さんと初めてお会いしたのは、2009年「太宰ナイト」開催前の飲み会。文則くんはもっと前だよね?

中村 その2、3年前かな。トークイベントをしていたら、ライターさんが来て、「よしもとのフリーペーパーで芸人さんが『銃』を紹介してまして。会えるなら、本人喜びますよ」と言われたので、「じゃあ、会います」って。芸人さんだからテンション高いよなと思って、ちょっと嫌だったんだけど。

西 嫌やったんや(笑)。

中村 そしたら暗がりに薄暗い人が立っていて。ぱっと見、芸人さんじゃないから、彼じゃないよね?って。建物も古かったし、そこに何百年か棲んでる地縛霊的な方かなと思った。

西 地縛霊(笑)!

中村 で、「今日はご足労ありがとうございます」って言うんだよ。“ご足労”なんて言葉、今どき使う人がいるんだなって思ってたら、「W村上ということで、連れてきました」って、しずるの村上くんとフルーツポンチの村上くんを紹介されたの。どういうボケかわかんなくてね。で、ネタも何も見ていないのに、見た感じの独特さで「絶対、売れるよ」とか、よくわかんないことを直観で言っちゃった。

西 そのあと、ほんとに三人とも売れたから、すごいなぁ。

中村 ほんとに(笑)。それが出会い。その時、本の話もしたんだけど、武者小路実篤とか、あのあたりの時代の小説のことは俺より全然詳しくて。本好きというレベルを超えている、ヘンな人だなと思った。

西 ヘンだと思ったんや(笑)。

中村 そう。俺ヘンな人好きなんだよね。あの時、“読書芸人”みたいな存在が生まれるとは予想もつかなかった。その後、俺お笑い好きだし、ネタを見てやっぱり独特で面白い人だなぁと思って。それから時々会うようになった。

西 小説、書くと思ってた?

中村 そうね。又吉くんが売れた時、本好きな芸人ということで、あらゆる出版社が小説を書いてくれって言ってくるだろうなって。でも、彼はどうやら断り続けてたみたいなんだよね。エッセイや本の紹介文を書いて、練習を積み、満を持して『火花』を書いた。だからいいものが書けたんじゃないかと。そこも彼のすごいところだと思う。

西 普通ならその時点で舞いあがって書いちゃうよね。

中村 『火花』は西さんの『サラバ!』を読んで、書こうと思ったって言ってたよ。

西 うれしいなぁ……。

中村 小説を書きたい気持ちは、ずっとあったと思うんだけど、やっぱりなにか後押しがないと始められないからね。これは俺の予想なんだけど、『サラバ!』は“書く”ということにも言及しているでしょう? そこで「自分もやりたい!」と感動したと思うんだよね。だから文藝春秋は『サラバ!』に感謝しないと。

西 ハハハ(笑)。

中村 出版社の人からたまに言われたのが、「又吉さんに小説を書いてもらいたいんだけど、中村さんからも言って」って。でもそんなことしたら、プレッシャーになっちゃうから。

西 文則くんから言われたら、又吉さん、絶対、断れへん。

中村 でもこの前、無理な締め切りを言われた時、編集者に言ったんだよ。「交渉するからさ、僕の代わりに又吉くんが書くのはどう?」って。

西 最低やな、それ。又吉さんを売っとるがな(笑)。

中村 まぁ、そんなことしない。冗談だけど(笑)。

西 でも今ならそれ、ほんとに冗談にできるもんな。

中村 そうそう。だから『火花』は芸人さんが小説を書いたというレベルではないです。

中村文則
なかむら・ふみのり●1977年、愛知県生まれ。2002年『銃』で新潮新人賞を受賞しデビュー。04年『遮光』で野間文芸新人賞、05年『土の中の子供』で芥川賞、10年『掏摸(スリ)』で大江健三郎賞を受賞。『掏摸』はアメリカでも高く評価され、14年、デイビッド・グディス賞を日本人として初めて受賞。最新作は『あなたが消えた夜に』。

中村 『火花』を読んだ時に思ったことは、文藝春秋の『火花』の特設サイトの書評ですべて書いたので、それ読んでいただければいいんだけど、作家のデビュー作、特に冒頭って、その作家の本質みたいなものが出るでしょう? 『火花』は太鼓と笛の音から始まるんだけど、一見何気ない状況描写に見えて、実は漫才をしている自分たちの声を掻き消す音として存在している。自分の存在意義を託して、人々に発しているものを掻き消す音。

西 うん、うん。

中村 その後、花火があがって、自分たちより美しいものをみんなが見る。漫才中なのに自分も見ちゃう。ああいう大きなものに対する憧れとコンプレックスからあの小説は始まっている。それに彼の最初のコンビ名、“線香花火”でしょう。

西 そうやな。

中村 そういうコンプレックスは、優れた表現者が共通して持ってるものだと思う。彼の本質が出てるということも小説として成功している証拠だと思う。

西 戦略的なところがないよね。もちろん構成として優れているけど、思いがけない素直さが出てしまっている。又吉さんはめちゃくちゃ優しい方だけど、人に気を遣わせるような過剰なサービスはなくて、ちゃんと距離感がある。小説にもそれを感じた。

中村 そうだね。

西 読者に対してのリーダビリティはあるけど、過剰なところも、急にバランスを欠くところもあって。でも、私はかえってそこにぐっときた。たとえば、先輩芸人の神谷と一緒に暮らしていた真樹さんが、後々子供を連れて歩いているところに、徳永が出くわす場面とか。あそこはほんとに又吉さんが書きたかったところなんやなと。揺らぎというか、思わず飛び出してきてしまったとんでもない優しさと祈りの部分に、わぁーっと触られる感じがした。

中村 たしかにね。

西 急に彼女の人生をぐっと出してくるところに、又吉さんの真樹さんへの想い、真樹さんのような生活をしている女性たちへの想いが祈りとして出ている気がした。“絶対に”って書いてたでしょう。彼女から美しさを剥がせる者は“絶対に”いない。“絶対に”って、小説ではなかなか書けないよね?

中村 そうだね。

西 あの想いがご本人らしい。静かな方ではあるけど、狂ったような情熱と優しさを持っていて、それが溢れでちゃったという感じがした。

中村 小説の構成を考えると、書かないほうがいいことってあるじゃない? でも“こう書きたい”というのはあるもんね。

西 そうそう、あるやん。

中村 なるほどね……。そうか、あの場面を書いた理由はそれだよ。優しかったんだよ、彼が。

西 神谷の真樹さんへの扱いが許せない読者もいると思う。でも、真樹さんの優しさを書くことに尽力して、あげく彼女が絶対に美しいのだと書くというのは、作者としてとても勇気がいるということをわかってほしい。

中村 そこが作品の構成を超えて、読む人を感動させる。

西 小説って、切実さがほしくない? 心に残るものって、ちょっとした歪さとか、温度差がうわぁっとあるようなもの。

中村 いい意味での不完全性。

西 それが『火花』にはある。又吉さんそのもの。優しくて、アホで、全力で、美しくて。で、又吉さん、叫びたがりやん? 舞台のタイトル「咆号」って、あったなと。

中村 本人は叫ばないけどね。叫びたいのかな?

西 マグマみたいなものをお持ちやから。小説で叫ぶっていうやり方が又吉さんっぽい。

中村 内にあるものは熱い。

西 とんでもないものをお持ちで。まず異形やん?

中村 異形!

西 暴力的にオーラがある。ちょっと怖いとこもあるよね。

中村 やっぱりすごいな、西さん。又吉くんのことを漢字二文字で表すなんて。

西 え? 異形?

中村 はっとしたよ。うわ、ぴったりだわ。

西 異形で異能でもある(笑)。

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