フェティシズム写真家・青山裕企が自身の10年間を振り返る『SCHOOLGIRL COMPLEX 2006-2015』

文芸・カルチャー

2015/8/29

 あるときは高くジャンプするサラリーマンこと『ソラリーマン』を撮り、またあるときはトップアイドルの写真集を手がけるカメラマン……写真家・青山裕企にはさまざまな顔がある。なかでも、女子高校生の脚や手をフェティッシュな視点で切り取った『スクールガール・コンプレックス』(イースト・プレス)は、世の中に鮮烈な印象を与えた代表作のひとつだ。そんな“フェチ写真”のパイオニア・青山裕企さんが、10年間撮りためた写真を再セレクトした作品集『SCHOOLGIRL COMPLEX 2006-2015』が、9月4日に発売される(8月31日まで予約受付中)。さっそく、青山さんに今作への想いを聞いた。

青山裕企さん(以下、青山)「実は、今回の写真集は海外に僕の作品を知ってもらうことが目的のひとつなんです。また、作品を撮り始めてちょうど10年というタイミングでもあったので、これまでの作品を振り返る意味でも、この形になりました」

「スクールガール・コンプレックス」シリーズ

映画が「スクールガール・コンプレックス」シリーズの転機に

 10年の間、被写体に対する姿勢やコンセプトにもさまざまな変化が起きているという。

青山「これまで、被写体の個性を消して“記号化”する、という意味合いで顔を出さずに写真を撮っていたのですが、2年前ぐらいからこの2年から口元や鼻など、顔のパーツを写した作品も増えてます。今後は顔そのものを写す可能性もあるので、そういった変化に対しても、自分の中で区切りをつけたいという気持ちがあって、写真集を出すことにしました」

「スクールガール・コンプレックス」シリーズにおいて、顔を写すことは大きな変化。その転機となったのが、自身も原案として携わった映画『スクールガール・コンプレックス~放送部篇~』(2013年公開)だった。

青山「実は、完成した映画を観たとき“もう作品は撮れないな”と思ったんですよ。顔を出したリアルな女の子たちが自分の作品世界のなかで映画になっている、それだけでも衝撃的でした。さらに、オーディションの時からいいなと思っていた森川葵さんが、僕がずっと追い求めていた理想の女の子を演じてくれたことで、今まで女性に抱いていたコンプレックスが解消されて、自分のなかで作品が完結したような気がしたんです」

被写体の女子高校生が1人から2人に変化

 一度は“シリーズ完結”まで意識した青山さんだったが、その後もテーマを模索しながら作品を撮り続けたという。10年間の中でもっとも大きな変化が「スクールガール・コンプレックス」シリーズに訪れる。被写体の女子高校生が1人から2人になったのだ。

青山「撮り始めた頃は、1人の男の子が1人の女の子に対して感じている“触れたいけど触れられない距離感”や、思春期男子のピュアでありながらいやらしい妄想の視点、僕個人が女性に抱いている恐怖心などを作品にしていました。しかし、作品や映画を制作していくうちにそのコンプレックスが昇華され、僕自身の眼差しは薄まりつつある。それもあって、今は女の子と女の子同士の複雑な“関係性”を僕が撮影するという、一歩引いたコンセプトに変わりました」

SCHOOLGIRL COMPLEX 2006-2015』の表紙に使われている写真こそ、2人の女の子を撮影した記念すべき最初の作品だという。

青山「これは、被写体が1人から2人に変化したことを感じられる橋渡し的な写真。すぐに表紙に決めました」
 さまざまな想いが込められている布張りの表紙を開くと、2006年から2015年までの作品が時系列順に掲載されている。青山さんの言う“変化”を順を追って堪能できる仕様なのだ。これらのなかでも、思い入れのある作品を聞いた。

 白いベッドに倒れ込み、チェックのスカートからスラっと伸びた白い脚。そして、太ももにポチッとあるホクロが印象的な1枚。

青山「この写真は、初撮影時のものです。本当に感覚的に撮った写真だったので、作品という意識もなかったですね。実は、この白壁の反対側は赤い壁になっていて、それが写真全体の印象をガラッと変えたと思います。今だったら、赤みがからないように対処するんですが、当時は自分の技術の甘さもあってそのまま作品になりました。そういう意味でも“今は撮れない写真”のひとつです」

 奇跡の1枚ともいえるこの作品は、自身の初めての展覧会でも注目を集めたという。

女性からの評価という“謎”を解明するために写真を撮る

青山「観にきていた女性のお客さんから“淡い雰囲気がいい”という評価をいただいたんです。この“淡い雰囲気”に懐かしさや美しさを感じたと言われて、驚いたのを覚えています。当時、僕の作品は女子に引かれると思っていたので、女性からの評価が“謎”だったんです(笑)。ずっとコンプレックスの対象だった異性から、この写真を承認される謎を解明したくて、活動を続けているようなところもあります」

 女性たちから得た思わぬ高評価。それこそが、スクールガールの原点なのかもしれない。

 4本の脚が絡み合う、まさに“複雑な関係性”を感じさせる写真。なんと、実物は1m以上もある大迫力の作品だ。

青山「被写体が2人になった初期の作品です。海外で展示したときに一番注目を集めたものでもあります。ほぼ制服が写ってないところがポイントですね。女子高校生的な部分は靴下くらい(笑)」

“女の子を混ぜたい! ひとつにしたい!” という迷走期

 世界各国で行われている、青山さんの展覧会。各国それぞれ、作品に対する評価が異なるという。

青山「とくにスペインでは“一体これはなんなんだ!”という、理解されないリアクションが返って来ました。どうやら、日本で言われるようなフェティシズムという視点ではなく、メタモルフォーゼとかトランスフォームと捉えていて、まったく概念が違っていたんです。実は、当時2人の女の子をどう撮るか迷走していた時期でもあって、“女の子を混ぜたい! ひとつにしたい!”っていうもどかしさが、スペインでハマったのかもしれません。作品にとって、迷走することはとても重要なことだと考えています」

 それぞれの作品から青山さんの“迷走”を感じ取るのも、本書の楽しみ方のひとつになるはずだ。

東京・早稲田に「YUKAI HANDS Gallery」をオープン

 『SCHOOLGIRL COMPLEX 2006-2015』で10年を振り返ると同時に、海外進出を展開している青山さん。さらに、今後の大きな展開として10月9日には「YUKAI HANDS Gallery」を東京・早稲田にオープンする。同ギャラリーでは、スクールガール・コンプレックスやソラリーマンなど、青山さんの代表作の展示はもちろん、さまざまな企画展が催される予定だ。

 青山少年が抱いた“コンプレックス”からはじまり、10年を迎えた「スクールガール・コンプレックス」シリーズ。これからどんな進化を遂げるのか、ひとときも目が離せない。

青山「本を出すのも好きですが、展示した作品をみてほしいという気持ちはずっとあります。ギャラリーオープンは10年来の夢でした」

「青山さんは○フェチ」

 青山裕企さんのフェチ写真といえば、制服姿の女の子の太ももやおしりなど、女性でもドキッとしてしまうカットが多い。そんな青山さんは、一体何フェチなのだろうか?

「性別を超えて“耳”が大好きなんですよ。もともとショートヘアの女の子にすごく執着があるんですけど、“耳が出てる女の子”に惹かれてることに最近気がつきました」

 なんと、青山さんは脚でも胸でもお尻でもなく、耳フェチだったのだ! どんな耳がお好み?

「いうなればみんなベストです。耳を触ってみると、骨ばった部分は硬いのに耳たぶはやわらかい…。穴の形も神秘的ですよね。実際はしないですけど、耳を見たとき無意識に端から端までの”耳の道筋”を目でたどってしまいます。どんな耳でも、ずっと見ていて飽きないんですよ」

 耳へのアツい愛が炸裂! いつか写真集が出る可能性も?

「耳の写真集はニッチすぎるんですよね。でも、ギャラリーで企画展をする可能性はあります(笑)」

 撮影中は隙を見てモデルさんの耳を撮影しているとのこと。“青山裕企の愛しの耳展”が開催される日も近い?

青山裕企(あおやまゆうき)
1978年、愛知県名古屋市生まれ。2007年、キヤノン写真新世紀優秀賞受賞。2010年より写真集『スクールガール・コンプレックス』(イースト・プレス)シリーズが、累計10万部を超えるヒットを記録。最新刊『むすめと!ソラリーマン』(KADOKAWA)の画像が、世界各国のニュースで取り上げられるなど、話題に。サラリーマンや女子学生など“日本社会における記号的な存在”をモチーフにしながら、作品を制作している。
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取材・文=不動明子(清談社)