「自分らしさ」はいらない? 萌える立体(フィギュア)の世界を支える原型師の仕事とは

マンガ・アニメ

2015/9/1

  

 この10年で、およそ17倍にまで成長した市場がある。それは、フィギュア。フィギュアスケートではない。アニメやゲームのキャラクターを三次元化した、人形のフィギュアだ。現在約300億円市場といわれ、あるホビーショップの取り扱い点数資料によると、2004年に約50種だったフィギュアは、2014年には約850種にも増えている。

 しかし、まだまだ、「アニメは見るけれどゲームもするけれど、フィギュアまでは…」という人が多いのも事実。そこで、『萌えを立体(フィギュア)に!』(ミカタン/星海社)を読んで、知られざるフィギュアの世界に入門してみた。

フィギュアを手に入れるには?

 フィギュアの販売は、主にアニメグッズを扱うホビーショップにて行われる。一般的なサイズは、20センチ前後。このサイズは1/8スケールと呼ばれ、予約制が基本だ。

 なぜ一般的なグッズのように、大量生産して店頭に並べることをしないのか。それは、製作に時間とコストがかかるためだ。例えば、ある会社が、1万体の製品を作ったのに1000体しか売れない、という失敗を一回でもしてしまったら、その会社は倒産だ。これではリスクが高すぎるので、サンプルを作って公開し、予約を取る。予約の取り方は、一定以上の数に達したら締め切りにするパターンと、申し込まれた数すべてを作るパターンの2通りだ。このように、フィギュアは予約販売が基本のため、予約をした人が実際に商品を手にする頃には、アニメ放送が終了していることがほとんど。作品の盛り上がり時期と、フィギュアの発売をあわせるのは非常に難しいのだ。

フィギュアはどうやって作るのか?

 フィギュア作りは、まず原型を作るところから始まる。原型を基に鋳型を作り、量産をするのだ。この原型を作るのが、原型師。個人で請け負うフリーの人と、メーカーに所属している人がいるが、どちらも手作業でフィギュアを作り、納期までに仕上げるのが仕事だ。材料はポリエステルのパテ。道具はデザインナイフ、またはカッター、それに紙やすりにアルミ線。主にこれだけだ。工程は、まず身体の各パーツと服のパーツを作り、繋げ、整える。これもまたシンプル。しかし、筋肉や髪の一瞬の動きを静止させた立体を作るのだから、その技は非常に高度だ。

原型師はクリエイター? アーティスト? それともただの職人?

 原型師の存在を知り、“もし自分が原型師だったら、美少女キャラの胸にパテを多めに盛って…”とアーティスト魂を、くすぐられた人はいないだろうか。膨らんだ妄想に穴を開けるようだが、実際の原型師には、アーティスト魂はいらない。原型師の役割は、原作イラストを、忠実に立体に起こすことにあるからだ。つまり、作り手の「自分らしさ」は邪魔なのだ。

 フィギュアの企画は、メーカーが立案をし、原作サイドの許可をとってはじめて成立する。発注を受けた原型師は、メーカー担当者と綿密な打合せを行った上で、はじめて製作にとりかかるのだ。この打合せは、作品の完成形に担当者が何を求めているかを汲み取る大切なもの。だから、「自分らしさ」を出さず、注文どおりに仕上げるという点で、原型師はいわば職人といえよう。

 しかし、注文どおり、イラストどおりといっても、“どおり”にするためにはテクニックがいる。それは、360度どこからみても破綻のない立体に仕上げる技術だ。前から見ると整っているが、後ろから見ると顔と首の位置が狂っている、などということは許されない。たとえ、原作のイラストが、キャラクターの個性を強調するためにわざとデッサンを崩していたり、現実には不可能な身体の動きをとらせていたとしてもだ。

 このテクニックは、ぜひ現物で鑑賞したいところだが、まずはweb画像でもよいので、ちょっと見てほしい。不思議なことに、そのつもりがないのに作り手の個性が現れてはいないだろうか。先ほど、「自分らしさ」は邪魔だと言ったが、イラストを立体に起こすときの想像力や、髪の流れや服の細部へのこだわりは、人それぞれ独自のものだからだ。この意味では、原型師はクリエイターなのである。

 二次元から三次元にキャラクターを写し取る原型師。今最も熱い市場で奮闘する人達を知ったことで、フィギュアの新たな魅力を知ることができた。また、彼らをクリエイターと呼ぶ時、どんな仕事の中にも、それを行う人の「自分らしさ」が潜むことに気付かされる。どんな仕事もクリエイティブ!と豪語はできないが、私の代わりなんていくらでもいると卑下している人へ、あなたの仕事のあり様は唯一無二のものだと言う事はできるはずだ。

文=奥みんす