まだまだ続く『アンフェア』小説版の舞台は新宿~韓国へ! 雪平夏見が挑む闇とは?

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/17

 さようなら雪平……女刑事・雪平夏見が凶弾に倒れる衝撃のシーンに胸がざわつく映画『アンフェア the end』予告編。人気シリーズの最新作にして完結作が、いよいよ9月5日より全国公開となる。

 それに先駆け、原作者である秦建日子の「刑事 雪平夏見」シリーズ最新作『アンフェアな国』(秦建日子/河出書房新社)が刊行された。あまりのタイミングの良さに、映画と同じストーリーかと思いそうだが、実はそうではない。一連の「アンフェア」シリーズは、同じ雪平夏見という女刑事を主人公にしながら、実写版と小説では持ち味も内容も全く異なる世界が描かれているのだ。

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 「バツイチ、子持ち、大酒飲み、捜査一課検挙率No.1、無駄に美人」という型破りな女刑事・雪平夏見が登場したのは小説『推理小説』(2004年)。この作品をベースに女優・篠原涼子が雪平を演じる連続テレビドラマ『アンフェア』(2006年)が生まれ、一連の実写シリーズでは「雪平の父の死の真相と国家の闇に迫る」というテーマのオリジナルストーリーが描かれてきた。
 一方、小説版の「刑事・雪平夏見」は、様々な難事件を追う雪平の活躍を丹念に描き、5作目までの発行部数が累計で153万部となる人気シリーズ。雪平をはじめ個性的な登場人物のキャラとスリリングなストーリーの魅力に加え、雪平と娘・美央や仲間たちとの関係性や心境の変化も丹念に描かれるヒューマンドラマ的な味わいも人気のツボだ。

 この度刊行された小説『アンフェアな国』は、前作の刊行から2年、満を持して発表されたシリーズ5作目となる。本作の主人公も、もちろん雪平夏見だ。ただし、事件で受けた銃弾で左腕が麻痺し、すでに警視庁捜査一課からも外れ、新宿署の組織犯罪対策課に異動が決まったばかりという境遇が時の流れを感じさせる。
 物語は着任の前日、雪平に「新宿署管内で起きた危険ドラッグ常習者による外務省職員のひき逃げ事件の真犯人は別にいる」と訴える電話がかかってくることで幕をあける。不審に思った雪平が秘密裏に事件を洗い始めると、新宿署のずさんな調査状況や、行方不明となっているもうひとりの被害者など不可解な事実が次々と明らかに。やがて、独自に捜査を続け、真相に迫ろうとする雪平を暴走車が襲い、彼女を守ろうとしたかけがえのない仲間が瀕死の重傷を負ってしまう。仲間への思いを胸に事件の解決を決意した雪平は、単身、事件の鍵となる国・韓国へ――。

 危険ドラッグの売買、ヤクザの抗争などリアルな新宿界隈の闇を背景に、韓国から来た謎の男、アクの強い組対課の上司、どこか奇妙な新任署長など、それぞれに思惑のありそうな男たちと対峙するクールな雪平は相変わらずのかっこよさ。そして、地道な捜査に没頭しつつも時に大胆すぎるほどの賭けに出る彼女の男前さに、やはりシビれる。
 その一方で、娘のために慣れないスマホと格闘したり、友人から預かった大型犬にとまどうなどの意外な一面や、安藤(注:小説では生きている!)をはじめとするメンバーを「仲間」としてより強く意識するようになる雪平の内面の変化も丁寧に描写され、単純なハードボイルドでは終わらない奥深さもある。

 特に印象的なのは、緊迫する日韓関係が作品に色濃く反映されていることだろう。「雪平は今の日本に生きている人間だから」と著者は執筆の理由を語るが、ヘイトスピーチ集団へのリアルな違和感など、そこには「現代に生きる作家」としての著者自身の視線が重なる。単身、韓国に渡った雪平が韓国のVIPに体当たりでぶつかっていくなど、そのスケールの大きさはエンターテインメントとしても抜群だが、今の社会の是非を問う力強さも同時に感じさせるのだ。

 そしてファンには意味深でドラマチックなラストにも注目してほしい。予想外(?)の展開だが、多くが「待ってました!」とばかりに膝を打つのではないだろうか。それにしても、少なくとも小説の世界では、クール&ビューティな雪平夏見は、まだまだ健在! 歳を重ね、さらに魅力を増した彼女の活躍がこの先も楽しめるのはうれしい限りだ。

文=荒井理恵