拝み屋にして怪談作家、郷内心瞳って何者だ!? | 夏のホラー部第5回

公開日:2015/9/6

壮絶すぎる半生記『逆さ稲荷

――最新作の『拝み屋怪談 逆さ稲荷』は、郷内さんの子ども時代が描かれていて、怖さの中にちょっと懐かしいテイストもありますね。

郷内:こういうちょっと不思議な怪談が一番好きなんです。『花嫁の家』のような大ネタって読み手も書き手もエスカレートする面がありますよね。もっと悲惨な話、もっと不幸な話って。そうなると最後は創作に走るしかない。それはイヤなんですよ。『逆さ稲荷』では、小さいけど不思議で印象的な話を並べて、怪談ってこういう面もあるよね、と示したかった。この本が一番好きという方もいて、それはすごく嬉しいですね。

――ある恐ろしい事件をきっかけに、郷内さんが拝み屋になることを決意する、という壮絶な半生記でもあります。

郷内:もともと怪談やお化けの世界は大好きだったんですよ。でも、本職の拝み屋になるということは、そんな楽しい世界と隔絶することなんですね。あまりいい喩えではないですが、ヤクザ映画を好きな人も、本職になろうとは思わないじゃないですか。

――タイトルの『逆さ稲荷』に込められた意味も、ラストまで読めば明らかになります。これは郷内さんのお化け愛が込められた言葉だったんだなと。

郷内:タイトルは実は担当さんが決めたんですよ。もう一案あって『厠(かわや)なまず』っていうんですけど(笑)。さすがにそれは勘弁してください、ということで『逆さ稲荷』になったんです。結果的には、わたしの怪談観が反映されたいいタイトルになりました。

冷たい目を向けられて、安心しました

――今後はどんな作品を書かれるつもりですか?

郷内:次は『逆さ稲荷』の延長で、もっと日常に寄せた怪談実話を書けたらいいなと思っています。読者が自分の身に起こるかもしれない、と感じるような作品ですね。その次には、読者を恐怖のどん底にたたき落とすような作品を書きたい。緩急をつけてやっていきたいと思っています。

――作家になったことで、本業のお客さんが増えたということは?

郷内:全然ないですよ。むしろ逆効果だったんじゃないですか。自分をヒーローとして描いていないので、こんな情けない奴には頼みたくない、と思われたかも。たまに「本を読みました」というファンの方が、わざわざ相談事を作って来てくれたりはします。ついでに生の怪談を聞かせてください、とか(笑)。

――会いに行ける怪談作家ですか!それにしても郷内さんは明るいですよね。拝み屋さんは明るい方が向いているんでしょうか?

郷内:だと思いますね。相談事を聞いて、一緒にどんどん沈み込んでいくようなタイプの方よりは、明るく受け止められる人の方がいいでしょうね。まあ、わたしは明るすぎて異常なんですけどね。

――作品のイメージとギャップがありますもんね。

郷内:先日、仙台で初めて怪談トークライブを開催したんです。50人くらいのお客さんが集まってくれて、目をきらきらさせてわたしを迎えてくれるんですね。こんな雰囲気は慣れないから緊張してしまって、「こんばんは、橋本環奈です!」って挨拶をしたら、場がシーンと静まりかえって。

――そりゃそうですよ……。

郷内:冷たい目で見られたんで、よし、こっちの方がしっくりくるなと安心しました。拝み屋でも作家でも、すごいですね、と特別な目で見られるのは苦手なんです。

取材・文=朝宮運河

■プロフィール
郷内心瞳●1979年宮城県生まれ。郷里で拝み屋を営む。2013年「調伏」「お不動さん」の2作で第5回『幽』怪談実話コンテスト大賞を受賞。受賞作は『怪談実話コンテスト傑作選 お不動さん』に収録されている。著書に『拝み屋郷内 怪談始末』『拝み屋郷内 花嫁の家』『拝み屋怪談 逆さ稲荷』(すべてKADOKAWA)がある。

拝み屋怪談 逆さ稲荷
著者:郷内心瞳
出版社:KADOKAWA
価格:560円(税別)