オッサンから学んでみよう! 本当に面白い、男性芸能人エッセイ特集

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/17

 世の中には、色々なオッサンがいます。良いオッサン、悪いオッサン、イカすオッサン、ダサいオッサン。新米のオッサン、もう半分くらいジイサンになりかけのオッサン。当たり前ですが、オッサンの数だけオッサンがオッサンになるまでの人生があったはずです。今回はその中から選りすぐりの面白いオッサンたちの人生が垣間見えるエッセイをご紹介しましょう。

蛭子さんの脳内がわかる!(かもしれません)

▲蛭子能収『蛭子能収のゆるゆる人生相談』(光文社)

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 「この人の頭の中は一体どうなっているんだろう?」テレビで蛭子能収さんを観るたびに思うことです。番組の進行は無視するし、人の話は全く聞かないし、口を開けばトンチンカンな事を言うし……そんな彼が「人生相談」をするというのだからこれは読まずにはいられません。「どうしよう、中身が全部白紙とかだったら……」などと余計な心配をしつつ、表紙をめくって驚愕。なんと、ちゃんと人生相談にのっているのです。例えば、30代の女性から「不倫をしてしまっていて……」という相談が来ます。それに対する蛭子さんの答えはズバリ「好きなように生きればいい。ただし、自由には責任が伴う」えっそんなマトモな事を言うの? キャラクター的にアリなの? と拍子抜けしそうになりますが、大丈夫、蛭子さんは自分のキャラにすらさほど興味がないのです(というか、本物の天然なのです)。だから、彼は一生懸命に相談にのります。そして、読みながら分かってくるのは蛭子さんがとても「マトモ」な人だということ。勿論、本書の中には新婚旅行で三日連続競艇に行った話など、ぶっ飛んだエピソードも多々ありますが、それでも全く未知数な蛭子さんの頭の中がほんの少し垣間見える、そんな一冊です。

大泉洋はダサくて、カッコいい!

▲大泉洋『大泉エッセイ』(角川文庫)

 バラエティで見る大泉洋さんは、ちょっとぼんやりした表情で、ボソッと面白いことを言ってウケたり、逆に狙ったのにスベッてしまい、そこがまた面白かったりで、飾らない自然体な姿が魅力ですが、このエッセイの中でもそれが全開に発揮されています。文章でもやっぱり大泉さんは全く飾らない。自分のカッコ悪い一面を隠そうとしないし、くだらない発見を大げさに喜ぶ、そして家族への深い愛情を惜しげもなく語ります。半人前だったころの自分を恥もせず、むしろそれを嬉しそうに披露する。大泉さんは自分を一切大きく見せようとはしません。でもそれがカッコいいのです。「大泉洋のようにいつも自然にふるまえたら楽だろうな」と思う人もいるかもしれません。でも、自然体が一番難しいのです。自分のありのままのダサさを他人に見せることが出来る大泉さんは、芯が通っているし、メチャクチャカッコいい!

「世界の天才」が、まだ「浅草のキッド」だった頃

▲ビートたけし『浅草キッド』(新潮文庫)

 ビートたけしの名前を知らない日本人はほとんどいません。その名がそれほど幅広い世代に知れ渡っているのは、彼が時代によって様々な顔を私たちに見せてきたからです。例えばそれは、破天荒な個性で周囲を巻き込んでいく芸人の顔であり、抜身の刃物のような危なさを秘めた男の顔であり、世界的な映画監督としての顔でもあります。そんな彼がまだ、「ただの人」であったころから、天才の片鱗を見せ始めるまでがこの自伝風のエッセイには物語られています。そこで描かれているのは、憎まれ口を叩きあう師匠と弟子の温かな絆、そして、まだ一つも形になって無い自分の可能性を、強烈に強く信じぬく北野武青年の姿です。「世界の天才」がまだ「浅草の青年」に過ぎなかった日々の物語は、私たちにまたひと味違う顔を見せてくれます。

元最強暴走族総長、異色の宇梶伝説!

▲宇梶剛士『不良品』(SB文庫)

 もしあなたがまだ20代前半の若者なら、「宇梶剛士」といわれても、いまいちピンと来ないかもしれません。しかし、ちかごろ話題の「倒れるだけで~腹筋がワンダーコアァ~」のCMの人といわれれば、誰の事だかお分かりになるのではないでしょうか。それでは、あのコミカルなCMでお馴染みの宇梶さんがかつて17歳で2000人の暴走族の総長だったと聞いたら、あなたはそれをすんなりと信じることが出来ますか? 「そんなマンガみたいな話!」と思うかもしれません。でも、本当なのです。宇梶剛士という人は、マンガの主人公のだったのです。彼の唯一の自伝である本書には、現在の彼からは全く想像もできないような壮絶な半生が綴られています。孤独な少年時代、野球への夢と挫折、暴走族時代の圧倒的なカリスマ、少年院での恩師との出会い、菅原文太や三輪明宏への師事……。全てのエピソードがカッコよく、まるで少年マンガを読んでいるかのように夢中になって読み終えてしまいます。そして、正々堂々をモットーに男らしく生きる宇梶剛士さんの新たな魅力にきっと気づくはずでしょう。

普通じゃない夫婦の、普通じゃない結婚生活

▲鈴木おさむ『ブスの瞳に恋してる』(マガジンハウス文庫)

 たとえそれが、どんなに自分の好みのタイプであったとしても、まだ付き合ってもいない人とその日のうちに結婚を決めてしまう人がいるでしょうか。それも、自分が「ブス」だと思う相手と。本書は鈴木おさむさんの妻・大島美幸さんへの猛烈な愛によって書かれていますが、それにしても「ブス、ブス、ブス」の連呼の嵐で、いったいどこまで本気で言っているんだろう? 冗談にしても少し酷いのでは……とだんだん不安になってきます。しかし、その懸念は見当はずれであることが、このエッセイを最後まで読んでわかりました。鈴木さんは冗談などではなく、心の底から妻を「ブス」だと思っているのです。そして、そんな「ブス」で「面白い」妻を心から尊敬し、愛しているのです。普通の夫婦ではありません。愛の硬度がそもそも違うのです。だから、このエッセイから「結婚生活のお手本」のようなものを期待してはいけません。学ぶべきことは、「愛の形は色々」ということ。普通じゃない夫婦の普通じゃない新婚生活に、是非とも圧倒されて下さい。

 ご紹介したオッサンたちも、生れたときはみんな同じ、可愛い赤ん坊だったはずです。それが、数十年を経て千差万別な人生経験を積む中で、濃厚な個性を持ったオンリーワンなオッサンへと熟成していくのです。時には、そんな素敵なオッサンたちに注目し、彼らから人生のヒントを見つけ出すのはいかがでしょうか?