耳で読む本「オーディオブック」が楽しい理由 ―誰にでも読書する楽しさを届けたい

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/17

立ち上げてから5年は鳴かず飛ばず。大事なのは「ロマン、そろばん」

今でこそオーディオブック大手といわれるようになったが、立ち上げてから5年は鳴かず飛ばず。「収益とはなんぞや、という感じでしたね。需要がないところでコンテンツを増やし続けていましたから」と上田さん。

「でも、こういった仕事は『ロマン、そろばん』が大事。ロマン(理念)だけでは気力が尽きたときに倒れてしまう。でもそろばん(カネ)勘定だけでは、何かがあったときに、よりお金のある方に人が動いてしまう。トラブルもあるでしょう。なので、ロマンとそろばんのバランスが取れているということは、社会貢献的な事業を継続するのにとても重要なものだと意識しています」(上田さん)

上田さんが目指したのは“家族全員が楽しめる”コンテンツ。「もし、祖父が生きていた頃にこういうもの(自社で出しているオーディオブック)が普及していたら、祖父だけでなく、祖母もわたしも同じプレイヤーを囲んで、同じ本を楽しめたと思うんです。なかったからテレビに頼らざるを得なかったんじゃないでしょうか」(上田さん)

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運転中、電車での通勤中、ランニング中など耳のスキマ時間活用に訴求すべく、ビジネス書から作り始めたオーディオブックだが、「今後は誰もが楽しめるものを作るという“ロマン”にも力を入れ、文芸分野のコンテンツを増やしていきたい」と上田さん。

普及と認知のために、聴き放題サービスAudibleと業務提携したのかとの質問に対して上田さんはこう答えた。「もちろんそれもあります。でも、弊社一社だけでは市場が活性化しないですよね。これを機に、良きライバルとして切磋琢磨し合い、この市場がもっと拡大し、“聴く”文化が定着すれば良いですね。そして、見える方にも見えない方にも読書する楽しみを味わっていただきたいと考えています」

取材・文=渡辺まりか