上京経験者は泣ける!『ちびまる子ちゃん』初期のあまり知られていない“名作3選”

マンガ・アニメ

2015/9/13

 テレビアニメ『ちびまる子ちゃん』の放送開始25周年を記念して、同作の映画化が決定(今年12月23日公開予定)! 実に23年ぶりの映画化とあって、待ちに待っていたファンも多いはず。そんなまるちゃんといえば、おっちょこちょいでおかっぱ頭がトレードマークの小学3年生、というイメージを持っている人がほとんどではないだろうか。しかし連載初期の頃は、作者・さくらももこが“まる子”と呼ばれていた小学生時代の話だけではなく、巻末として、作者の高校・大学時代などの話もコンスタントに掲載されていたのをご存知だろうか? 今回は、漫画『ちびまる子ちゃん』(集英社)の初期の短編ストーリー“ほのぼの劇場”から、選りすぐりの名作を紹介しよう。

 

涙ながらに娘を送り出す「ひとりになった日」(3巻)

 故郷を離れたことのある人は、自分の経験と照らし合わせるとウルっとくるであろう「ひとりになった日」。就職と同時に、静岡から東京・高円寺へ引っ越し、初のひとり暮らしをすることになったさくらももこと、これから東京で暮らしていく娘を案ずる母とのセンチメンタルなエピソード。

 引っ越しの手伝いで娘と一緒に東京に来た母が「あしたから ももこがそばにいなくなると…おかあさん どうしよう」と本音を漏らすと、ももこの心の中も“わたしだって あしたからひとりになる どうしよう…”と寂しさでいっぱいになる。

 そして、母が静岡へ帰る日、ももこは東京駅まで見送ることに。高円寺の駅で、ももこは“東京駅まで”、母は“静岡まで”の切符を買うあたりから、互いにじわじわと湧いてくる「これから離れて暮らす」という実感。切なげな2人の表情から、その寂しさが読者にも伝わってくる。この時点でもう涙を誘うのだが、さらに追い打ちをかけるような描写が続くのだ。母を見送ろうと東京駅まで一緒に行くも「こんどはおかあさんが階段のところまで一緒に行くから、もう行きなさい」と、逆にももこを見送ろうとする母。そして、「からだに気をつけてね」と涙ながらに娘を送り出す。

「雑踏にまじって母の声がきこえるから よけい悲しくなる」
「…わたしはきょうからひとりになりました 家に帰っても もうだれもいません」

 東京という大都会、大勢の人の中での孤独感。上京経験者は最も感情移入する場面ではないだろうか……。最後に、誰もいない家にももこが帰宅すると、母からの置き手紙があり、その内容にもまた涙。ぜひ読んでみてほしい一作だ。

 

転校生が初めてみせる笑顔に安堵する「5月のオリエンタル小僧」(2巻)

 この物語の中心人物は、冒頭で「『さくらももこ』の漫画では二度と見られないようなはっきりとしたこの目鼻だち」と紹介される「折原君」という少年だ。たしかに、折原君はパッチリとした目鼻立ちが特徴的な彫りの深い男の子で、初めて見た読者はまさにこの冒頭と同じことを思うのではないだろうか。愛知県の小学校からまる子のクラスに転校してきた彼は、そのオリエンタルな風貌から、“怒らせたら何をされるか分からない” “何か怪しい”というクラスメイトからの偏見に苦悩する。ライダーごっこに入れてもらっても、折原君が入るとみんなに余計な気を使われてすぐに終了。毎日クラス全員で歌う学級歌も、転入したての折原君はなかなか覚えられず、彼はクラスから孤立してしまうのだ。

 そんなある日、折原君が休み時間のたびにどこかへ出掛けていることにクラスメイトたちが気づき、あとをつけてみることに。そこにあったのは、学級歌を一人で黙々と練習する折原君の姿だった。なんと、折原君は学級歌を一日でも早く覚えてクラスに馴染もうと、裏庭で休み時間のたびに一生懸命練習していたのだ。それを見たクラスメイトは、今までの彼に対する態度を反省し、一緒になって学級歌を歌い、仲間として正式に迎え入れた。最後に折原君がやっと見せた笑顔が印象的なストーリーだ。

 

努力はムダなんかじゃない! 勇気をくれる「夢の音色」(4巻)

 少女漫画家を志していた作者が、エッセイ漫画家としてデビューするまでを描いた「夢の音色」。高校時代は、正当派の少女漫画を描き、『りぼん』に投稿していたというももこ。渾身の出来だと思った作品も、思い通りの評価を得ることができず、やっぱり夢は夢なんだ。漫画家なんて、なれっこない、と見切りをつけようとしていたある日のこと。学校で行われた作文のテストが、彼女の運命を変えることになる。

 「面白半分に取り組んだ」というテストの点数はなんと95点。教師の批評欄には「書き流したエッセイ調の文体が高校生とは思えない」「現代の清少納言」とまで書いてあったそうだ。この嬉しさを噛み締めながら、帰り道で彼女は「エッセイを漫画にしてみたらどうだろう」と思い立った。コミックには当時を思い出して「1983年7月のある日の思いつきが 現在のわたしの第1日目であった」と記されている。親からの反対を受けてもなお、漫画を描き続け、投稿した作品がついに『りぼん』で入賞。反対していた両親も、徐々に協力的になっていく。しかし、人生とは波のあるもので、それから1年間何も動きがなく、また弱気になっていたももこ。そこに一本の電話が……! 「デビューが決まりましたよ」。この言葉を聞いた彼女はヘナヘナと腰が抜けたという。努力はいつか報われる、と勇気づけられるエピソードだ。

 「ほのぼの劇場」は、文字通りほのぼのとしながらも、感情を揺さぶられるストーリーが数多くある。ここでは3作しか紹介できなかったが、注目すべき作品はコミック全体を通してまだまだ存在する。映画の予習として、『ちびまる子ちゃん』を手に取ってみるのはいかがだろうか? 1巻から読み進めてみたり、以前からのまるちゃんファンは、読み返して懐かしさに浸ってみるのもまた一興!

文=高橋明日香(清談社)