「欲望に流される方が人生は楽しい」恐怖と官能の作家・花房観音インタビュー | 夏のホラー部第6回

公開日:2015/9/12

ふり返るとそこに慰霊碑が!

――長年バスガイドとしても勤務されて、『おんなの日本史修学旅行』(ベストセラーズ)というガイド本まで出されていますが、仕事上で怖い目に遭ったことは?

花房:わたしは霊感ゼロですからはっきり見たことはないですが、バスガイドや運転手からはその手の話をしょっちゅう聞きますね。宿泊先で部屋が足りないと、ガイドは普段人を泊めないような部屋に押しこめられるんですよ。ある運転手さんが襖を開けたら、中に仏壇が入っていたとか。

――都市伝説じゃなくて本当にあるんですね。

花房:別の運転手さんがとある温泉地で宿泊していたら、部屋の中を白いものがぐるぐる回ってるんですって。怖くなって近くの交番に駆けこむと「ああ、あの部屋は泊めたらあかんのになあ」と言われた。以前、老夫婦が心中を遂げた部屋だったんです。

――それは……霊感の強い人には向かない仕事ですね。

花房:ええ。敏感なバスガイドさんは、自腹で別の旅館に泊まることもあるそうです。仕事柄、東尋坊などの自殺の名所にもよく行きますし、見える人にはきついでしょうね。

――長年お住まいの京都で怖い体験は?

花房:京都は基本的に居心地がよくて、怖いと感じたことはありません。あ、唯一ぞっとしたのは、バスでS鉄道の事故現場を通った時ですね。お客さんに案内していたら、いきなり背中から鳥肌が立ってきて、ふり返ると鉄道事故の慰霊碑が建っているのが見えたんです。

――今後も怪談やホラーを書いていくつもりですか?

花房:前向きに書いてゆきたいです。怪談は死んでもなお残るほどの強い妄執、執着を描くことができるジャンル。執着を書くことで、生きることの切なさも伝えられます。そこには当然、性愛の要素も入ってくる。わたしが書きたいと思うものを書くと、自然と恐怖と官能の要素は入ってきちゃうんでしょうね。

花房観音さん

取材・文=朝宮運河

(プロフィール)
花房観音●2010年「花祀り」で第1回団鬼六文学大賞を受賞して作家デビュー。著書に『女の庭』『恋地獄』『偽りの森』『鳥部野心中』『黄泉醜女』などがある。『女之怪談』(岩井志麻子、川奈まり子との共著)など怪談実話集への参加も多い。

黄泉醜女
著者:花房観音
出版社:扶桑社
価格:1600円(税別)