「オレは上に行くよ」──ミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズンの魅力を解説

エンタメ

公開日:2015/9/27

    テニミュ

  ステージの前方に、ぽつんと一冊のコミックスが置かれている──観客の多くが、その意味を考えただろう。それはミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズン 青学(せいがく)vs聖ルドルフ公演、開演前のこと。

 置かれていたのは『テニスの王子様』8巻で、まさにこれから上演されようという、青学(せいがく)こと青春学園と聖ルドルフ学院の全国中学生テニストーナメント東京都大会・準々決勝戦が収められている巻だ。やがて幕があき、コミックスに描かれているキャラクターが映像で映しだされ、本から飛び出してきたかのようにキャストたちが登場する。そして、届けられたのは「原作そのもの」の舞台だった。

 『テニスの王子様』(許斐剛/集英社)を舞台化、2003年4月初演。2.5次元ミュージカルの先駆けとされ、原作の全42巻を数年間かけて上演し続ける、この舞台は「3rdシーズン」の名の通り、今回で三巡目。その内容は常に進化し、観客を驚かせる。

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 すべてオーディションで選ばれるというキャストは、この「テニミュ」で初舞台を踏むことも少なくない。彼らは初めての舞台で2時間近く、「役」として板の上で試合をし、観戦し、いきなり全国各地での公演を経験する。ゆえに初日から千秋楽への成長もすさまじく。繰り返し通い詰める、魅力のひとつがそこになる。

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 ことに、この聖ルドルフとの試合を描いた今作は、のちに全国大会でそのパワーを炸裂させる桃城・海堂が初めてダブルスを組み、黄金(ゴールデン)ペアと呼ばれる大石・菊丸が思わぬ弱点をさらす…という未来への布石がもりだくさん。常に冷静、天才と呼ばれた不二周助を兄に持ち、そのコンプレックスから聖ルドルフに進学した弟の不二裕太の意地が愛おしく、その弟を思うがゆえに、裕太を道具として使った聖ルドルフ参謀の観月はじめに静かに怒りを表す試合は迫力だ。
 さらに「原作」を越え舞台からはみ出し現実を侵食するかのような、遊びもおもしろい。テニミュ史上初登場となる聖ルドルフテニス部副部長のノムタクこと野村拓也が客席に向かってペコリを挨拶し、“充電切れ”により敗退した菊丸英二は、試合中に歌って踊って体力を使っちゃったことを反省する。

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  舞台上に、ダブルス2の桃城・海堂vs柳沢・木更津と同じくダブルス1の大石・菊丸vs赤澤・金田の8人が登場。クロスして向かい合いラケットを手に歌い踊り、同時進行する試合の緊迫感を伝える。場面転換することなく、平行する時間軸を幾重にも折込み伝える、その密度がたまらない。
 一方で、同時に行われていた不動峰中学vs氷帝学園といった、他校同士の試合も盛り込まれ、なんと不動峰の橘と氷帝の宍戸の試合場面も描かれる!(初日、その瞬間に客席が静かに、しかし騒然となったことは言うまでもなく)
 今、まさにこの瞬間、まちがいなく舞台の上では、各強豪校が鎬(しのぎ)を削っていた──なんという臨場感。

    テニミュ

  そして、兄を倒すことしか眼中にない不二裕太に、圧倒的強さを見せる越前リョーマは言い放つ。
「オレは上に行くよ」
 それはまるで、客席に対する、舞台としての宣言でもあるかのように。
 原作から飛び出した、彼らは誰も観たことのない高みへと。新たな3rdシーズンは、今から観ても、十分に楽しめる。いや、ぜひとも今、この3rdシーズンだからこそ観てほしい。
 ミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズン 青学(せいがく)vs聖ルドルフは9月5日、東京・TOKYO DOME CITY HALLにて開幕。宮城、愛知、大阪、福岡を経て、東京凱旋11月3日まで全44公演上演中。

    テニミュ
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 9月4日、怒涛の公開通し稽古(ゲネプロ)を終えたのち、青学から越前リョーマ役の古田一紀、不二周助役の神里優希、聖ルドルフから観月はじめ役の宮城紘大、不二裕太役の大原海輝、不動峰より橘桔平役の青木空夢が登場。それぞれの思いを力強く語った。

神里「不二の大好きな弟が登場するということで、稽古場から、裕太との関係を意識して演じてきました。普段、冷静な不二が観月に対して怒りを見せるところに注目してほしいです。そして、テニミュの魅力のひとつである、光と音と映像の融合も楽しんでください」

大原「今日、幕が開いて、ぼく自身、鳥肌が立ってしまうほどの迫力でした。不二裕太としてはリョーマとの試合、兄の周助との関係、試合の前と後の変化を見せたい。なにより、新曲があるので聴いてほしいです。裕太としての思いを全力で届けます」

宮城「聖ルドルフとしての、一幕と二幕での変化を観てほしいです。テニミュに初めてノムタクが登場し、新たなチームで歌う新曲がすごくいいので、楽しみにしていてください」

青木「不動峰メンバー7人揃っての出演がうれしいです。新しい演出もたくさんありますが、ぼく自身もこれをかっこ良くできなかったら橘_桔平としてどうなんだろう……というくらい、すごくかっこいい演出をしてもらっているので、勝手にプレッシャーを感じています!」

古田「今回、圧倒的な強さで裕太を倒す試合なので、体をすごく鍛えました! 全22曲中、新曲が7曲あります、不動峰公演とはちがったカラーの公演で、毎公演全力でやりますので、いつでも観に来てください!」

    テニミュ
    (左から)橘 桔平/青木空夢、不二周助/神里優希、越前リョーマ/古田一紀、観月はじめ/宮城紘大、不二裕太/大原海輝
    (c)許斐 剛/集英社・NAS・新テニスの王子様プロジェクト
    (c)許斐 剛/集英社・テニミュ製作委員会

ミュージカル『テニスの王子様』公式HP http://www.tennimu.com/
テニミュ・モバイル http://tennimu.jp/

■公演情報
ミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズン 青学(せいがく)vs聖ルドルフ

東京公演
期間:2015年9月5日(土)〜13日(日)
会場:TOKYO DOME CITY HALL ※公演は終了しました

宮城公演
期間:2015年9月19日(土)〜20日(日)
会場:多賀城市民会館 大ホール

愛知公演
期間:2015年9月25日(金)〜27日(日)
会場:名古屋文理大学文化フォーラム 大ホール

大阪公演
期間:2015年10月2日(金)〜12日(月・祝)
会場:大阪メルパルクホール

福岡公演
期間:2015年10月23日(金)〜25日(日)
会場:キャナルシティ劇場

東京凱旋公演
期間:2015年10月30日(金)〜11月3日(火・祝)
会場:TOKYO DOME CITY HALL

【キャスト】

〈青学〉
越前リョーマ:古田一紀
手塚国光:財木琢磨
大石秀一郎:石田 隼
不二周助:神里優希
菊丸英二:本田礼生
乾 貞治:田中涼星
河村 隆:滝川広大
桃城 武:眞嶋秀斗
海堂 薫:佐奈宏紀
堀尾聡史:志茂星哉
加藤勝郎:篠原 立
水野カツオ:晒科 新

〈聖ルドルフ〉
赤澤吉朗(※):中尾拳也
観月はじめ:宮城紘大
柳沢慎也:尾関 陸
木更津 淳:佐藤祐吾
野村拓也:佐川大樹
不二裕太:大原海輝
金田一郎:上村海成
(※)赤澤吉朗の「吉」は「土」に「口」が正式表記です

〈不動峰〉
橘 桔平:青木空夢
伊武深司:健人
神尾アキラ:伊崎龍次郎
石田 鉄:中村太郎
桜井雅也:諒太郎
内村京介:高根正樹
森 辰徳:小林辰也

取材・文=おーちようこ