「出ない順」なのに「出る篇」 乳首やミキプルーンが頻出する英単語帳の使える中身

文芸・カルチャー

2015/9/29

せっかく英語を勉強するなら、試験に出るものを中心に覚えたい。そう考えている人が多いから、書店の参考書コーナーには、「試験に出る!」、「これだけ覚える!」などと銘打たれたものが並んでいるのだ。そういった世の中のニーズを全力で無視したのが、『出ない順 試験に出ない英単語』シリーズ(中山:著、千野エー:イラスト/飛鳥新社)である。先日、その『出る篇』が発売された。出ない順なのに、出る篇なのだという。出るのか、出ないのか、一体どっちなのか。

開いてみると、よくある参考書よろしく、3つのチャプターに分かれている。それぞれ、「押さえておきたい重要単語・表現309+非重要単語」、「日常でも使える重要単語・表現249+非重要単語」、「ピンチを救う重要単語・表現289+非重要単語」とある。「非重要単語」はともかく、重要単語や表現を前面に押し出しているあたり、『出る篇』の本気がうかがえる。何しろ、過去のシリーズでは、「第一章 絶対出題されない英単語」、「第二章 高確率で出ない英単語」、「第三章 試験に出ない長文読解」と、一冊を通して基本的に出ないことに熱心だったのだ。それがどうだろう。今回は心を入れ替えたかのように「重要単語・表現309」とか言い出している。

さっそく例文を見てみよう。

弊社では、ようやく鼻を垂らした社員と、垂らしていない社員の割合が、創業以来はじめて同じになった。
At last, the ratio of employees with runny noses to those with non-runny noses has reached 1:1 for the first time since the founding of our company.

ここで、例文のインパクトだけに注目するのは早計。よく見るとページ内には、例文の中で特に重要な単語や言い回しも紹介されているのだが、なるほどこれは覚えておくべき単語・表現かもしれない。「at last:ついに」、「ratio:割合」、「for the first time:はじめて」などがそれである。

掲載されている例文にもいくつか傾向があり、頻繁に使われている題材もある。ここでは、どこかで見たことのあるアニメやゲームに関連する例文、乳首に関する例文、そして中井貴一に関する例文、を紹介したい。まずは中井貴一から。

高いレベルのミキプルーンが、中井貴一の家の地下水で検出された。
High levels of MIKI Prune were detected in the groundwater of Kiichi Nakai’s house.

待て! 慌てるな。偶然にしてはミキプルーンの数が多すぎる。これは貴一の罠だ
Wait! Don’t panic. There are too many MIKI Prunes for it to be mere coincidence. This is Kiichi’s trap.

このように、中井貴一といえばミキプルーン、ミキプルーンといえば中井貴一、と言わんばかりに、本書にはなぜか執拗に中井貴一が登場する。

どこかで見たことのあるアニメやゲームの登場人物を思わせる例文も頻出する。

その頭部が食パンの形をしたヒーローが登場した途端、ハトの大群が猛然と襲いかかった。
As soon as the white-bread-headed hero appeared, a large flock of pigeons swooped down on him ferociously.

顔に局部麻酔の注射を打ってから、そのあんぱん頭のヒーローは自分の顔の一部をちぎって、飢えた人に分け与えた。
Injecting local anaesthetic into his face, the sweet-bean-bun-headed hero tore off parts of his own head and gave it to the hungry.

よくぞ来たアリアハンの勇敢なる若者よ! そなたの尿酸値を冒険の書に記録してもよいかな?
Welcome! Our brave lad of Aliahan! Shall I record your uric acid level in this Adventure Log?

もっとも、例文の中で作品の名前が出てくるわけではない。アンパンや食パンの頭のヒーローも、アリアハンの勇敢なる若者も、いずれも単なる偶然かもしれない。

どういうわけだか、乳首に関する例文も、かなりの頻度で登場する。

そう言えば、彼はがっちりした体格に似合わず、乳首はやや気弱です。
As I recall, despite his athletic build, his nipples are somewhat timid.

問題:鶴と亀が合わせて12匹います。乳首の数が合計27個の時、鶴と亀はそれぞれ何匹いますか?
Question: There are some cranes and tortoises, 12 in all. When the total number of nipples is 27, how many cranes and tortoises are there, respectively?

皆、厳しい練習によく耐えてきた。これは途方も無い仕事になるだろうが、とにかく始めよう。じゃあまず、俺の乳首つまんで
I’m proud of all of you for making it through the rigorous training. This will be an enormous job, but let’s get started. First, pinch my nipples.

例文をよく読んでみると、「respectively:それぞれ」、「despite:~にもかかわらず」、「coincidence:(偶然の)一致、合致)」、「proud of:~を自慢に思う」、など、受験英語を勉強していた頃に“試験に出る”とされていた単語が多く使われていることに気付く。「This is a pen.」のような無味乾燥な例文よりも、乳首やミキプルーンのほうが、よっぽど記憶に残るだろう。本書で単語を覚えれば、「あ、これ乳首の例文に出てきた単語だ!」と試験の助けになること間違いなしである。

文=朝井麻由美