エンジニアから出版社社長へ!「ぶっちぎりのオリジナリティ」を武器に、世界のコミック市場を揺さぶる【超本人 第1回】

ビジネス

更新日:2015/10/8

 この春、出版業界の門をくぐったばかりの新人編集者2人は悩んでいた。「いったいどうすれば超一流の出版人になれるのだろうか……」誰もが知っているあの作品や、人々の心を揺さぶる一冊を世に送り出してきたのは、その張本人はいったい何者なのだろうか。本を作ることのエキスパートとして活躍し続ける超人たち、まさに張本人ならぬ「超本人(ちょうほんにん)」とはいったいどんな人物なのだろうか……。会ってみたい! その技を盗みたい! そして超本人への近道を見つけ出せ!

 

 はじめまして! この春、入社したばかりの『ダ・ヴィンチ』の新人です。まだ、右も左も分からない見習い編集ですが、これから出版業界の大先輩・超本人(ちょうほんにん)からお話を伺って、一人前になる為の極意を学んでいきたいと思います。どうぞ、お付き合いください!

 突然ですが、みなさん広告コピーってお好きですか? 有名なものでは、「恋は奇跡。愛は意思。」(ルミネ)や、最近では「世界は誰かの仕事でできている。」(ジョージア)などが有名ですよね。商品やサービスをただ説明するだけでなく、読む人を楽しませたり、感動させたりする魔法のような言葉だと思います。

 こちらの『何度も読みたい広告コピー』では、そんな素敵な言葉たちが、広告のビジュアルと一緒に紹介されています。【顧客目線型】、【物語型】など、タイプ別に分けられていてとても読みやすく、タイトル通り「何度も読み」返したくなる一冊です。

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 パイインターナショナルという出版社から刊行されているのですが、こちらの出版社では、大人向けの塗り絵や、クリエイター向けのデザイン本など、アーティーでお洒落な書籍を沢山出版されています。そして、何を隠そう1人目の「超本人」は同社の社長、三芳寛要(みよしひろもと)さんです! ちなみに、この『何度も読みたい広告コピー』は三芳さんが「最も会社を表している一冊」としてお選び下さいました。広告コピーの本が代表作――。いったいどんな出版社なのでしょうか。

三芳寛要さん

――はじめまして! このたびは「超本人」インタビューをお引き受け頂きまして、ありがとうございます。

三芳寛要氏(以下、三芳) 今日はどうぞよろしくお願いします。

――早速ですが、三芳さんからご紹介いただいたこの『何度も読みたい広告コピー』について教えてください。この本はどういうところが御社らしいのですか?

三芳 3つあるんですけれど、もともと、弊社はデザイナーやイラストレーターなど、クリエイターの方々に向けて本を出していました。最近はそれ以外のジャンルの作品も出していますが、いつもクリエイターの為のオンリーワンの出版社という存在を意識しています。広告というと商業的なイメージがあるかもしれませんが、広告は、コピーライターやグラフィックデザイナーの努力や想いの結晶。それは、クリエイティブな作品以外のなにものでもないと思います。

――そういう意味でいうと、題材としてはとても御社らしいんですね。

三芳 そうですね。2つめはとても幅広い読者層に読んでもらえたこと。これは、この本や、その他のデザイン書について送られた感想カードなんですけれど。

大きなファイル! 個人情報の為、中身をお見せできないのがとても残念

――凄い! こんなに沢山。

三芳 今、5回の増刷を経て、6刷なんですが、累計で3万部ぐらい売れています。これは広告本というマイナーなジャンルではとても珍しいことなんです。しかも、その感想カードを送って下さる方の年齢がとても若くて。20代や、中学生の方も送ってくれたんですよ。じつは、これを送ってくれた読者の中には、後の社員もいるんですけれど (笑)

――もしかして感想カードが採用の決め手だったりとか……?

三芳 勿論、そんなことはないです(笑)。入社後に本人から言われて知りました。でも、それぐらい、新しい読者を引き込めたという手応えがありましたね。3つめはこの本を元コピーライターの編集者が作ったということです。うちは異業種から来た社員がとても多いのが特徴です。他にも、学芸員とかウエディングプランナーとか、宝石商とか。

――宝石商!?

三芳 実は、私も新卒ではエンジニアをやっていました。

――そうだったんですか! 

三芳 小さいころからSFが好きで、大学では電子工学を勉強していました。それで、卒業後に半導体の設計事務所に入りました。論理設計という仕事をしていたんですけれど、人工知能にとても興味があったので、凄く面白かったし、向いていたと思いますね。

エンジニア時代の三芳さん(ご本人作)

――その後、どういう経緯で出版社に?

三芳 13年くらいそこで働いて、マネジメントをするような立場になったんですが、「人がやりがいを持って働きやすい環境を整える」という役割が向いてることが分かってきたんです。実は、弊社の今の事業は私の父が創業したんですが、そんな頃に声がかかって。ITとは全く異なる分野で、経営という立場でダイナミックに変化を起こす仕事というのに魅力を感じましたし、これまでに自分が培ってきたものを役立てることが出来るのではないかと思いました。

――エンジニアと出版社の仕事は、一見かなり異なるように思いますが、実際に転職されてみていかがでしたか?

三芳 勿論、実際の作業の違いはありますがチームを組んで一つの商品(作品)をプロデュースしていく、というプロセスは同じだと思います。でも、最も異なるのは半導体は何十億という予算でひとつのプロジェクトを動かしていくのに対して、一冊の本は数百万円という予算で出版して、それで世界に問うことができる。

――出版社に転職されるにあたって「これは絶対にやってみたい!」という野望は何かありましたか?

三芳 勿論ありますよ!

――教えてください!

三芳 まぁそのうちね(笑)

――えぇ! 教えてくれないんですか!!(笑) それでは、そんなお茶目な三芳さん率いる御社にキャッチコピーを付けるとしたら、いかがでしょうか。

三芳 「魅力ある文化、優れたクリエイターと世界との懸け橋になりたい」。これはキャッチコピーにしては少し長いのですが、いつも社員に言っていることです。

――「世界との懸け橋」ですか。

三芳 去年、パリで「北斎展」を見ましたが、大盛況でした。そこでは北斎の肉筆画も展示されていたのですが、そういう作品を見てパリっ子たちが一生懸命ノートを取って勉強したり、写生しているんですね。今でこそ、葛飾北斎という画家はこのように世界中で評価されていますが、それもまずその作品を見出し、フランスで知らしめた偉大な先人がいたからこそなんです。私たちはいま、その恩恵にあずかっています。だからこそ、恩返しをしなきゃいけない。それは一言でいうと「懸け橋になりたい」という言葉になるんじゃないでしょうか。

――ということは、海外展開にも注力されているのですね。

三芳 そうです。昔から弊社はインターナショナルなデザイン書を海外で展開していて全体の売り上げの2割を占めることもありました。しかし、いまでは中国や香港でクオリティの高い類書が出はじめて、コスト競争力では彼らに敵わない。そこで、「オンリーワン」に立ち返ることに事にしました。世界市場におけるオンリーワン、それは日本の伝統文化とコミック。

――マンガですか。

三芳 もともとマンガが大好きというのもありました。父もマンガ好きで、小学生の頃からマンガに囲まれていましたね。特に、私の世代はジャンプ黄金期だったので、クラスメイトの95%が毎週ジャンプを買っていたような時代です。で、じつはエンジニアになる前はマンガ家になろうと思っていて、集英社に持ち込みをしたり、マンガ家さんのアシスタントをしていたこともありました(笑)

――なんと!!

三芳 それで、やっぱりコミックをやろうってなった時もまず第一に、うちのもともとの読者であるデザイナーさんやクリエイターさんに喜んでもらえるものにしないといけない、という思いがありました。こちらが弊社が発行するコミックの相関図です。

コミック相関図

――大友克洋さん、寺田克也さん…… 物凄いビックネームばかりですね。

三芳 そうなんですよ(笑) 大友さんや寺田さんだけじゃなくて、このアシュレイ・ウッドさんやジェームズ・ジーンさんは世界中でその名を轟かせているアーティストです。ズバリ、コンセプトは「圧倒的なクオリティとぶっちぎりのオリジナリティ」

――それはとても御社らしいコンセプトですね。

三芳 弊社はそれほど大きな出版社ではありませんが、それでもこういった超一流のクリエイターの方々に一緒に仕事をしたいと思っていただけるのは、編集者の情熱とパイらしいというオンリーワンに魅力を感じて頂いているからだと思います。

――今後もやはり、コミックに注力されていかれるのでしょうか。

三芳 勿論です。これからのパイの重要な事業になっていきますし、それにこれは出版業界全体の話にもなると思うのですが、本というのはニッチで深堀をする媒体だと私は考えています。というのも、今でこそ、インターネットの普及があって本離れみたいなことが叫ばれていますが、それは別にテレビが登場した時も同じだったのではないかと。勿論、インターネットは絶対的な存在としてありますが、本だってテレビだってそこで棲み分けすることは出来るんじゃないかと思います。だからこそ、今後生き残っていけるのは、本にしかできないことをやっている本でしょうね。

――本というメディアが、「オンリーワン」である事を求められる時代が来るということですね。

三芳 はい。だからこそ、「圧倒的なクオリティとぶっちぎりのオリジナリティ」なんです。そういう本を出していくと、おのずと次のステージが見えてきます。

――次のステージといいますと?

三芳 パイのキャッチコピーは「魅力ある文化、優れたクリエイターと世界との懸け橋になりたい」というもの。だから、これからは世界に通用する日本や海外の作家を発掘していく、という大きなビジョンがあります。

――もしかして、それが先ほどおっしゃっていた「野望」ですか?

三芳 そうなんです! 紙の出版物というのは、クリエイターが才能を発揮する入り口だと思っています。そこからデジタル、アニメ、ゲームといったコンテンツを世界に広く展開していく。私たちはそんな世界に通ずる、オンリーワンの「懸け橋」でありたいと願っています。

――とても、ワクワクする話ですね。楽しみにしています!

 

◆超本人 データベース◆
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No.01 パイ インターナショナル 代表取締役 社長
三芳寛要(みよし・ひろもと)さん

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9:00ごろ 出社。
メールチェック・決裁書類チェック・データ分析・広報業務など。

大塚の「とうふ屋ゑん重」にて

12:00 ランチ
この日は、作家の田代知子さんとランチョンミーティング。
ぬり絵シリーズにどんな帯をつけようかと話しています。

13:30 社内にて会議や打ち合わせ
編集・営業・国際部・経理との月次会議や、企画決定会議、経営会議など。

ブックデザイナーの祖父江慎さん

17:00 ブックデザイナーの祖父江慎さんと書籍『祖父江慎+コズフィッシュ』の打ち合わせ。
(「台割ができた~!」という場面。「出版する!」と言い続けて今年で10年目…ギネスものですね。必ず出版します。)

22:00ごろ 退社
弊社は、22:00までに退社が原則です。
しかし、繁忙期には私も含めてもっと遅くなることも……。

・休日の息抜きを教えてください。
 漫画を読んでいるときが一番幸せです。前職では家で漫画ばかり読んでると妻に怒られましたが、今は「仕事だから!」と堂々と読めて本当に幸せです。

・今読んでいる本を教えてください。
 塩野七生さんの『ローマ人の物語』です。
 歴史の読み物としてももちろんとても面白いのですが、優れた組織論・経営論の本でもあります。どのように組織は隆盛を極め、衰退の道をたどるのか、身が引き締まる思いで読んでいます。

・注目している「超本人」を教えてください。
文響社の代表、山本周嗣さん。
直接の面識は無いのですが、創業から間もない若い企業にもかかわらず、ベストセラーを次々に生み出す手腕に注目しています。また、元外資系証券マンだそうで、異業種からの参入という意味でシンパシーを感じます。