33歳独女(元軍人)が後宮に入ったら…中国版大奥『紅霞後宮物語』の主人公が型破り過ぎる!

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/18

 女同士のえげつない確執を描いた小説やドラマはどうしてこんなに面白いのだろう。『大奥』然り、『チャングムの誓い』然り、「やっぱ女って怖いわ〜」とか言いながら、続きが気になって気になって仕方がないのである。

 今回紹介する『紅霞後宮物語』(雪村花菜:著、桐矢隆:イラスト/KADOKAWA)もその名の通り、「後宮」を主軸にした物語。舞台は中国をモデルにした架空の国で、後宮には皇帝の妃候補である女官が何百人も控えているという設定だ。

advertisement

 そこは女官たちが皇后の座をめぐり、熾烈かつ陰険な闘いを繰り広げる女の園。主人公の関小玉はひょんなことから後宮に入り、1年経たないうちに皇后となってしまうのだが、当然ながら嫉妬心に駆られた女官たちから数々の嫌がらせを受ける羽目となる。中国版大奥 とも言える内容だが、変わっているのはその主人公が元々は武人というところだろう。しかも、御歳33(!)と、ヒロインにしては割と大人な年齢なのだ。

 薄幸な主人公がいじめられる様を見るのも面白いだろうが、軍人として過酷な環境に身を置いてきた小玉、後宮において向かうところ敵なしなのである。悪意のこもった嫌味にも気づかず、嫌がらせで寝室に豚の生首をおかれれば鍋の材料にしてしまい、刺客が入れば返り討ちー。清々しいほどの彼女の図太さは読んでいて気持ちがいい。

 だが、そんな主人公にも悩みはある。それは、夫、つまり皇帝との関係だ。現皇帝の文林と小玉は武官時代、同じ隊を率いる相棒のような存在であった。小玉の軍用の才を知る文林は、その能力を如何なく発揮させるために、あえて身分の高い皇后に彼女を据えたのである。そんな事務的な理由で皇后となってしまった小玉。だが10年以上も親しい間柄だった2人は実は互いに憎からず思っているのである。ところが、政治的な理由で……と言いながら、小玉にまだ気持ちのある文林とは反対に、小玉は 「他の妃のところへ通え」と言わんばかり。同衾するものの指1本触れられない文林は憐 れ! いい歳してこじらせた大人たちの言動はなんとも切ない。中国をモデルにした緻密な設定で読み応えがある反面、後宮内での確執ひいては小玉と文林の関係はあくまで滑稽。壮大な舞台設定と、登場人物たちの人間臭い悩みとのギャップが本書の見どころでもある。

 当然、人間ドラマに終止するだけでなく、様々なアクシデントによって物語も大きく動いていく。皇帝が暗殺されかけたり、皇后自ら逆賊を征伐しに行ったり、後宮の女官が自分の息子を絞め殺したり……。そんな出来事を通して主人公と周囲の関係性は徐々に変化していくのだ。最強の皇后、小玉は今後後宮でどう立ち回るのか? 皇帝と小玉の関係はどこに収まるのか? やはりこの手の話は一度読み出すと続きが気になって仕方がない。

文=松原麻依(清談社)