神聖かまってちゃんも絶賛!ホラーマンガの鬼才・呪みちるインタビュー | 夏のホラー部第8回

更新日:2015/10/5

怖くてたまらない虫をついつい…

――今回刊行された『火星高校の夜 呪みちる初期傑作選Ⅱ』は、90年代から2000年代に発表された短編を集めたものですね。
:いつまで「初期」という厳密な区切りはないんですけど、ゼロ年代の前半まで、ホラーマンガ専門誌に描いていた時期の作品を集めました。その時期を境に、ホラーマンガ誌がばたばた消えていって、今ではほとんど残っていません。

――巻頭の「呪いのグレートハンティング」は、これでもかと描き込まれた虫や鳥の描写が圧巻です。
:虫も鳥も大の苦手なんですよ。特に駄目なのは、芋虫や蛾についている目玉模様。本物はもちろん、自分が描いた絵で見るのもイヤですね。「呪いのグレートハンティング」は夜の電車から見た大きな団地がヒントになっています。点々と並んだ明かりを見ていて、「あれが蛾の目玉だったら怖いだろうな」と想像してしまったんですよ。よく見間違いや勘違いをして、それがアイデアのもとになることが多いです。

呪みちる
「呪いのグレートハンティング」より

――苦手というわりに虫絡みのホラーが多いですよね。2作目の「地獄の色」も虫嫌いなら卒倒するんじゃないか、という衝撃作です。
:虫も苦手ですし、スプラッタ映画も苦手。昔はもうちょっと平気だったんですけど、想像力がたくましくなっているのか、年々いろんなものが怖くなっていますね。「地獄の色」に出てくる虫なんて、自分の嫌いなものの集合体。それをつい克明に描いてしまのは、描くことで克服したいという願望があるのかもしれません。

――ラストのセリフが突き刺さる「暗黒深海」など、どの作品もオチが見事に決まっていますね。
:昔の貸本系の怪奇マンガって、表紙はおどろおどろしくてカッコいいのに、読んでみると「なんじゃこりゃ」っていう作品が結構ありますよね。ストーリーが投げっぱなしだったり、出オチで終わっていたり(笑)。もしもああいう表紙で、中身も同じくらいクオリティが高かったら、それこそ理想のホラーマンガじゃないかと思うんです。自分が作品を描く時にも、できるだけインパクトのある絵を描きながら、完成度の高いストーリーを目指すようにしています。

――それと呪作品といえば、女の子キャラが美形揃いですよね。
:楳図かずお先生を筆頭に、ホラーマンガって女の子キャラがみんな可愛いんですよ。発表媒体が少女向けのことも多いですし、どんなにグロテスクな話でも、女性キャラは可愛く描くようにしています。

――どんなタイプの美少女を描くのが好きですか?
:おかっぱの女の子はよく出てきますね。これは好みというより、単純に絵が描きやすいからなんですよ。気がついたらおかっぱの子ばかり出していたので、最近は意識的にいろんな髪型の子を描くようになりました(笑)。

――プラネタリウムを舞台にした「夜空に消える」、怪しげな魔術団が出てくる「ジグ・ザグ・ボックス」など、レトロで幻想的な雰囲気も大好きです。
:ちょっとレトロなものの方が、不思議の入りこむ余地があるような気がするんです。「ジグ・ザグ・ボックス」に出てくる大がかりな魔術なんて、現代のマジックの水準からしたら馬鹿馬鹿しいものですが、だからこそ物語を作りだせる。幻想的な作品が多いのは、日野先生や古賀新一先生の影響かもしれないですね。

呪みちる
「ジグ・ザグ・ボックス」より

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