食堂、居酒屋、バーテンダー、カフェテリア…… 異世界○○屋、つぎのトレンドは!?

公開日:2015/10/5

 電子書籍販売サイト「eBookJapan」で連載中のコラム「ラノベ漂流20年! 前島賢の本棚晒し」。今回、ダ・ヴィンチニュースでは、その特別編をお届けします!

第2回「次にくるマンガ大賞」

 先日、常総市の実家が鬼怒川の洪水に飲み込まれるという「まさか!」のイベントに遭遇した前島である。

 堤防決壊から二日経っても水が全然引かないわ、引いたら引いたで家んなかめちゃくちゃだわ、押し入れに入れておいた中学時代の思い出の愛読書たち(『ルナルサーガ』も『ロードス島戦記』も『妖魔夜行』も……)は全滅だわ……でもまあ、落ち込んでてもしょうがないので戦闘態勢を整えるべく最寄りのワークマンに急行。ツナギだの安全靴だの長靴だのを買いそろえた次第。

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 いや、ワークマンはいいよワークマン。店内狭しとズラ~っとならぶ作業着や工具……なんつーかRPGの武器屋感満点。装備を選べば自然心もアガる!男の子はみんな武器屋が大好き! ……というわけで(この連載始まって以来、たぶん最も強引な前フリだ……)、今回、取り上げるのは「武器屋」のライトノベルである。

『レンタル武器屋アリーチェ』

田口 仙年堂 (著), 戸部 淑 (画) / KADOKAWA

「ロングソード、一泊二日で30万ガッツ」没落貴族の息子コテツが見習い女神と出会って始めたのは町唯一のレンタル店。店番ガーさんと商売に励むが、次々来るのは発明少女や勝負を挑む女鍛冶士など妙な客ばかり…?

『レンタル武器屋アリーチェ』公式サイト

 本書の舞台はパーニッツ王国の首都レディナイトの城下町にオープンした「血の裁きを永遠に」……改め「レンタル武器屋アリーチェ」。見習い女神にして鍛冶の天才の金髪少女アリーチェが鍛えた業物を扱う貸し武器屋。100万ガッツ出せば新品が買えるロングソードが、この店のものは一泊二日で30万と高額だがその性能は折り紙付きである。

 が……いいものをつくれば自然に売れる……とはもちろんいかないのが商売の世界。おまけに店員は、極度の人見知りで普段は声すら出せない、筆談メインなアリーチェ、彼女の武器に惚れ込みすぎてもはや変態の域に達しつつある一番弟子で没落貴族の息子コテツ、そしてアリーチェが鍛えた作品であるしゃべる石像ガーゴイル(子供が見たら泣く。セリフがやたらと大仰)と、およそ客商売に向かない連中ばかり。それでもどうにか凄腕の冒険者に贔屓にしてもらったり、あるいは商売上手な協力者を得たりして、あれこれ奮闘していく。

 使い手のニーズに合わせた多様な武器を取りそろえ、あるいは武器の強さをわかりやすく表示したり(RPGの攻撃力とか守備力って誰がどうやって計ってるんだ? なんて一度でも疑問に思ったことのある人は必読)、イラスト付きの手書きポップで飾ってみたり、あるいはみんな大好き○○○アーマーを商品に加えたり、あの手この手でお店を切り盛りする様が、連作短編の形式でテンポよく描かれていく。


 けれども、商売というものにはライバルがつきものであった、たとえば街の伝統ある鍛冶屋集団である工匠ギルドの面々、あるいは近隣にオープンした大量生産による薄利多売を武器とする巨大ショッピングモールなど、アリーチェたちの前には次々と「商売敵」が現れることになる……。

 ところで、店員がガーゴイルと聞いて、田口仙年堂のデビュー作でありアニメ化もされたヒット作『吉永さん家のガーゴイル』を思い出した人も多いかと思う。著者自身、

もし俺の昔の作品を知っており、かつこの本をすでに読まれていたら「あれ?なんかどっかで見たことあるキャラがいるぞ?」と思ったかもしれません。
田口仙年堂

 と述べるとおり、本作は「ご町内ハートフルコメディ」である『ガーゴイル』のファンタジー版とも言える内容にもなっている。著者の持ち味のひとつである暖かな雰囲気は、舞台を異世界に移しても健在で、「ライバル」はいても根っからの悪人はいない。レンタル武器屋にせよ、工匠ギルドの面々にせよ、ショッピングモールにせよ、鍛治士たちのもとめるものは「よい武器をつくること」である。

 では「よい武器」とは何か?

 それはもちろん攻撃力の高さだけでは決まらない。価格であったり使いやすさであったり……それこそ使う人と作る人と売る人の数だけ正解があるものであって、「商売敵」との交流を通じて、アリーチェやコテツがあらためて「武器をつくるとはどういうことか」を考えていく過程も読みどころだ。

 さて、しかしそもそも何故、アリーチェとコテツはレンタル武器屋を始めたのか?

 実はふたりにはとある強大な魔物に、それぞれ大切にしていたマジックアイテムを奪われ敗北したという過去がある。その魔物……「赤毛のガラティーン」に対抗できるための武器を鍛え、奪われた品を取り戻すことが、ふたり(とガーさん)の目的であり、だからこそ売って終わりの販売ではなく、使い手からのフィードバックを得られるレンタル武器屋を始めたわけ。

 この本書のラスボス(?)たるガラティーン、今巻でもちょこっと顔見せをするのだが、とにかく強いばかりでなく、ある種の風格と信念、そしてダークヒーロー然とした孤高のカッコよささえ備えた、最終目標にふさわしい相手であり(台詞のひとつもなしに、ここまで魅力的な敵キャラを描ける筆者の実力はすごい)……しかも、こいつ、これからどんどん強くなることが示唆されている。

 果たして、アリーチェの打つ剣が、ガラティーンに通用する日は来るのか。そしてもしもそんな剣が生まれるとしたら、とんでもなく派手な最終決戦にならざるを得ないわけで、続きも大変期待している。


 そうそう、それからもうひとつ。

 評者が気になっているのは、コテツという主人公の立ち位置である。「武器を作る側」「武器を売る側」「武器を使う側」様々な視点が交差する本書が一冊の物語としてまとまっているのは、鍛冶士アリーチェの一番弟子であり、レンタル武器屋アリーチェを発案した当人であり、そして実は結構、凄腕の冒険者でもある彼が視点人物となっているから、というのが大きい。

 が……それは悪く言えば器用貧乏で、立ち位置の定まらないヤツということでもある。実際、本文の中でも、一芸に秀でた他の面々に対し、そんな中途半端な我が身を嘆くコテツの姿が描かれる(その上で、本書のラストではちゃんと成長の一歩を刻むのだけど)。

 はたしてコテツは自分なりの何かを見つけられるのか……。何者かになれるのか……。あるいはそんな何者でもない自分こそを受け入れるのか……。そのあたりのテーマを描いてくれたらうれしいなあ、と個人的には思っている。

 


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