累計200万部を突破! 『魔法使いの嫁』の危うくも温かい、独特な魅力を解き明かす!

文芸・カルチャー

2015/10/6

 2013年に連載を開始して以来、その幻想的な世界観で多くのファンタジーファンを魅了してきたヤマザキコレの漫画『魔法使いの嫁』(マッグガーデン)。先日、第4巻が発売されて、累計発行部数は200万部の大台を突破したばかりだ。その勢いは留まることを知らず、近年フツフツと注目が集まっている「人外×少女」というジャンルにおいても、ひときわ異彩を放っている。そこで今回は、幅広い読者の心をガッチリと掴んで離さない、本作独自の魅力に迫ってみた。

 さて、『魔法使いの嫁』の魅力はいくつもあるが、まず大きく目を引かれるのはそのファンタジックな世界観。現代のイギリスを舞台にしながら、すぐ傍らに妖精や精霊が息づくロー・ファンタジーな世界と、それら異界の住人たちをイキイキと綴る優しいアートには、思わず現実を忘れてホッコリと癒されてしまう。しかし、本作で最も心を惹かれるポイントは、なんといっても主人公の少女・チセと、異形の魔法使い・エリアスの存在だ。

 主人公・チセは、幼いころから「人ならざるモノ」が見えていた。そしてその特異体質のせいで一家が離散し、ついには母親が目の前で自殺してしまう。そのため人間らしい感情を失ったチセは、15歳のときに誘われるがまま、異界の住人が集う影のオークションに自らを出品してしまうのだ。しかし、そこで人外の魔法使い・エリアスと出会って運命が一変。魔法使いの弟子として新たな人生を歩み始めることとなる。

 だが、対人的なトラウマがずっと尾を引いているチセは、エリアスに温かく受け入れられても、なかなか素直に心を通わせようとはしない。そんな彼女の姿を見ていると、何とも歯がゆく、しかし同時に愛おしさをも感じてしまう。

 一方、異形の魔法使い・エリアスも、その生い立ちはとてもホラーでミステリアス。1巻では怖い見た目に反してジェントルなムードを漂わせていた彼だが、ストーリーが進むにつれて徐々に仄暗い側面が露わになってくる。モンスターと化して破壊的な力を奮ったり、4巻では大昔、衝撃的な行為に手を染めていた事実も明らかになる。

 しかし、そんな恐ろしい顔を持つエリアスだが、あるときチセに長らく抱えている悩みをポツリと漏らす。それは「人間の感情を頭で理解はできるけど、共感ができない。人の感情というものが分からない」というもの。それを語るエリアスの表情は、骨なのにどこか寂しげで、胸をギュッと締め付けられる。

 この物語は「人の感情を失った少女」と「人の感情が分からない化け物」が、人間らしい心を手に入れるため、少しずつ成長してゆく内省的なドラマなのだ。巻を重ねていくうちに、いつしかこの奥ゆかしい2人の成長を、誰もが穏やかな心で見守りたくなってくるはずだ。

 そして最新の第4巻では、ついにかつてない大きな変化が2人の身に到来する。この数百年間、モノクロだったエリアスの世界に、初めて「感情」という鮮やかな色彩が灯るのだ。その感動的な瞬間は、ぜひ自身の目で確かめて頂きたいと思う。

 穏やかで幻想的なムードに酔いしれつつも、それだけでは語れない不思議なダークファンタジー『魔法使いの嫁』。師弟として、家族として、「人間らしさ」を求めるチセとエリアスの旅は、まだ新たな一歩を踏みしめたばかりだ。恋愛モノとはひと味違う、より深く、より温かいヒューマニスティックなドラマからますます目が離せない。

文=西山大樹(清談社)