金なし・経験なし・知識なしのアラフォーマンガ家が見た「田舎暮らし」の現実とは

コミックエッセイ

2015/10/7

『ぼっち村』(市橋俊介/扶桑社)
『ぼっち村』(市橋俊介/扶桑社)

 ここ最近、田舎への移住を希望する若者たちが増えている。その盛り上がりを受け、各自治体では地方への移住希望者を対象とした、「地方移住セミナー」を実施し、移住者獲得へ向け力を入れているとか。確かに、せわしない都会での暮らしに疲れ、「田舎でのんびり生活したい…」と思うことはある。けれど、なんの経験もない若者がふらっと移住したところで、そこは果たして“楽園”になり得るのだろうか。そんなに甘いものではないような…。

 そこで、参考になりそうなのが、『ぼっち村』(市橋俊介/扶桑社)だ。本作は、アラフォーの売れないマンガ家・市橋氏による、田舎暮らしの実録ルポマンガ。己のマンガ家人生をかけ、最後ネタ作りのために単身田舎へと乗り込んでいった、リアルな日常が描かれている。

 市橋氏の田舎暮らしは、はじまる前から前途多難だった。まずはなにより重要な、「住居探し」。彼は、その段階で田舎の洗礼を受けることになる。市橋氏が住居を探すうえで目をつけたのが、「空き家バンク」という制度。これは全国の自治体が移住希望者に向けて空き家情報を提供する制度のこと。そこには、「畑付き・一戸建て・賃貸」と、移住初心者が望む物件も多数掲載されていたのだが、蓋を開けてみると、情報の更新がされていないケースがほとんど! さすが田舎、おおらかというか大雑把というか…。結局、移住希望先の不動産屋に片っ端から電話をかけ、地道に物件を探すハメになってしまうのだ。

 また、なんとか不動産屋を捕まえたものの、案内された物件は一癖も二癖もあるものばかり。15年も放置されており無数の竹に取り囲まれてしまった物件や、目の前に「クマ出没注意」の看板が掲げられた物件、さらにはベランダに超巨大なスズメバチの巣がぶら下がっている物件なんかも!

 こんなんで本当に田舎暮らしできるのか…? プロローグの段階で、なんとも微妙な気持ちになってしまうが、それでもなんとか希望に叶う物件を見つけた市橋氏。畑は草ボーボー、天井は穴だらけ、給湯器は壊れて外されている始末だが、ようやく念願の田舎暮らしをスタートさせる。

 もちろん、素人の自給自足は問題ばかりだ。台風などはもちろん、ブヨやイノシシ、カラスなど、野生の生物も脅威になる。一生懸命育てた作物が、一晩あけたらボロボロになっていた、なんてこともザラなのだ。

 そして、田舎暮らしで懸念すべき点は、やはり「人間関係」。都会に比べて人と人の距離が近い分、万が一嫌われてしまったら、その地域では生活していけなくなることもあるのだ。実際、市橋氏は大家との相性が悪く、退去せざるを得ない事態に追い込まれてしまう。しかし、そんなことは珍しいことではないよう。基本的に田舎の大家には、「物件を貸してやっている」と考えている人が多い。そのため、借り主が気に入らない言動をした場合、「出て行け!」と追い出してしまうことも少なくないのだという。

 とはいえ、そこは人生をかけたマンガ家。多少のことで諦めるわけもなく、次に住める物件を探し、また一からの田舎暮らしをスタートさせていくのだ。

 本書のあとがきにて市橋氏は、田舎暮らしを通して最も成長できたのが「人との付き合い方」だと述べている。前述のようなトラブルもあったが、やはり田舎で暮らすうえで重要なのは人間関係なのだ。もしも「都会での雑多な人間関係に疲れたから」という理由で地方に移住しようものなら、また一味違った人間関係に面食らうことになるかもしれない。

 都会で暮らすか、田舎で暮らすか。いずれにしても、人間と関わりあって生きていくことに大差はない、ということなのだろう。

文=前田レゴ