【祝・生誕80周年】左手で描く、コマに「ナシ」の文字…赤塚不二夫が追求した「バカ」なマンガとは?

マンガ・アニメ

2015/10/8

『赤塚不二夫実験マンガ集』(赤塚不二夫/Pヴァイン)
『赤塚不二夫実験マンガ集』(赤塚不二夫/Pヴァイン)

 2015年9月14日、漫画家の赤塚不二夫先生(1935~2008年)が生誕80周年を迎えられた。それに合わせて多くの本が出版されるなど再び注目を集めている。とは言っても赤塚先生が漫画を描いていた最後の時代は1990年代。なので若い人たちには赤塚先生の何がスゴイのか、イマイチ伝わりづらいところがある。

 そこで赤塚先生の誕生日に合わせて出版された、赤塚作品の中でも振り切った内容のマンガばかりを集めた『赤塚不二夫実験マンガ集』(赤塚不二夫/Pヴァイン)と、赤塚先生の関係者へのインタビューを敢行した『破壊するのだ!!――赤塚不二夫の「バカ」に学ぶ』(高平哲郎、三上寛、坂田明、奥成達、足立正生、山下洋輔、赤塚りえ子、三田格/Pヴァイン)から、何がスゴイのかを見てみたい。

 赤塚作品で有名な実験は「説明つき左手漫画なのだ」だろう。ひとコマ目に「アシスタント全員と五十嵐記者は 十月十七日の朝 右手を骨折してしまいました(ほんとはウソ!!) したがって 今回の“バカボン”は左手でかいたので 絵の表現が思うようにいかず 絵に説明をくわえました けっして 手をぬいたわけ ではありません!! 赤塚不二夫」という断り書きがあり、絵はガタガタした線で描かれ、表情や行動、心の中を説明する文字がコマの中に組み込まれている。しかしその心の中の表現がコマを追うごとにどんどん過激になり、表情やセリフとして表出している建前との乖離が激しくなっていくというシュールな作品だ。

 編集者・放送作家である高平哲郎は『「バカ」に学ぶ』で「赤塚さんは、ギャグ漫画というカタチが決まれば決まっていくほど、どんどん嫌になっていってしまった。そのうち、左手で書いてもいいじゃないかと。下手でも俺の名前さえあれば通ってしまう、このバカバカしさは何だっていう挑戦ですよね。すごい人だと思った」と話している。

 さらに本書には、コマに「ナシ」と書いて次々と飛ばしていくことで読みやすさを追求する、ベタ塗りのコマに白い線で描く、雑誌掲載時に実物大になるようページいっぱいに顔を描く、突然劇画調になる、吹き出しの中に絵を描いて絵の代わりに文字を書く、行動のひとつひとつをひとコマずつバカ丁寧に描写する、ヒソヒソ話すと大声になる人を出して大きなコマを使う、ストーリーを編集者に見せるための下描きであるネームの状態を多用しながら人間は飽きっぽいことを皮肉るなど、様々な実験を行いながらもギャグ漫画としてきちんと成立させているのだ。赤塚先生は「誰も描かないマンガ。これがいちばん強いんだよ」と『レッツラゴン』のあとがきに書いているが、とにかく面白いことに貪欲なのだ。

 フォークシンガーの三上寛は『「バカ」に学ぶ』で、赤塚先生について「あんなバカな人というかね、あの人がすごいのはね、いまはバカが利口なふりをする時代でしょう? あの当時はね、利口な人がいかにバカをやるかって。赤塚さんはその先端みたいなもんでしたね。本当に頭のいい人でした。もちろん、人間として最高でしたよね」と語り、ジャズミュージシャンの山下洋輔は「破壊的でむちゃくちゃで暴力的で、世のなかの常識に反して、モラルに反してるものにユーモアを見いだすっていうのは、赤塚さんそのものじゃないですか」と発言している。

 赤塚先生が自身の生い立ちを語る『これでいいのだ―赤塚不二夫自叙伝』(赤塚不二夫/文藝春秋)には、戦前に満州で生まれ育ち、戦後に日本へ引き揚げて戻った後の強烈な体験、そして家族と離れて生活せざるを得なかったことなどが描かれており、世間一般で普通と思われていること、そして既存の枠組みって何だっけ?という大きな疑問を投げかけてくる。

 映画監督の足立正生は『「バカ」に学ぶ』で「彼がずっと思っていたのは、若い人はやりたいことをやらなきゃだめだと。それから好きなことを好きなようにやらなきゃだめだと。というのが、ほとんど何もできなかった苦労の蓄積のなかから、彼には回答としてあったんじゃないのかと。ほいで、そういった言葉は、一切直接的な表現で言ったことはないと思うんだけど、あのギャグや爆発的なエネルギーはそうとしか思えない」と語っている。

 ふざけたり、人と違うことやはみ出したことをやろうとすると、見ず知らずの人からも徹底的に叩かれる、とても息苦しい今の世の中で求められているのは「バカ」であり、「これでいいのだ」と思える潔さなのだ。スティーブ・ジョブズなんかよりももっともっと前に「Stay Hungry, Stay Foolish」を体現していた赤塚先生の作品、今こそ読むベシ!

文=成田全(ナリタタモツ)