単なる“バカの開き直り”にあらず 「反知性主義」という言葉が持つポジティブな意味

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/18

『反知性主義 アメリカが生んだ「熱病」の正体』(森本あんり/新潮社)
『反知性主義 アメリカが生んだ「熱病」の正体』(森本あんり/新潮社)

 「反知性主義」という言葉をご存知だろうか。

 今年に入って『日本の反知性主義』(内田樹編/晶文社)、『反知性主義とファシズム』(佐藤優、斎藤環/金曜日)、『超・反知性主義入門』(小田嶋隆/日経BP社)などの本が続々と発表され、各種メディアでの言及も増えている、ちょっとした流行語だ。

 字ヅラの印象からすると、「要するに“バカで何が悪い!”って開き直っている人のこと?」みたいに思う人も多いだろうが、その意味はちょっと違う……というか、ある部分では真逆と言えるほど違う。そんな反知性主義の成り立ちが分かる入門書『反知性主義 アメリカが生んだ「熱病」の正体』(森本あんり/新潮社)を紹介しよう。

 森本氏は本書の冒頭で、日本ではこの言葉が“若者の読書離れ”“テレビ番組の低俗化”“独りよがりで声高なナショナリズム”など、「ネガティブな意味で使われることが多い」という現状について言及。反知性主義には、そのような要素が含まれていることを認めながら、本来はそこにポジティブな意味も含まれており、それが「社会の健全さを示す指標」でもあることを紹介していく。

 この本の主題を一言で表せば、「反知性主義はアメリカのキリスト教を背景に生まれた」ということ。そのため本書は、アメリカ建国以来の同国でのキリスト教の変遷と、そこで重要な役割を果たした巡回伝道者たちを追った内容になっている。

 キリスト教と反知性主義にどんな関連が? と思ってしまうが、そのカラクリが面白い。その流れをざっくり説明すると、こうだ。

 アメリカで植民地開拓の基礎をつくったピューリタンは、高度に知性を偏重するキリスト教のプロテスタントの一派。日曜礼拝での説教などは極めて難解で、それは当時の庶民には厳しく辛いものだった。

 そんな中で人気を得たのが、平易で素朴な言葉と、語りの巧みさを武器にした巡回伝道者たち。既成教会の権威へのアンチ的存在で、高度な神学的知識も要求しない彼らの登場により、敬虔な信仰者が急速に増加。その中で芽生えたのが反知性主義だったのだ。

 反知性主義の成立背景には、学があろうとなかろうと神の前では万人が平等……という、キリスト教のラディカルな平等意識が流れている。つまり反知性主義は、単なる知性への反逆や、バカの開き直りではない。宗教的使命のもとで、権威と結びついた知性や旧来の知性に反逆し、平等を志向する、“反権威主義”の側面も持っているのだ。

 なお森本氏は「日本には真性の反知性主義が開花することは難しいだろう」としながらも、日本で反知性主義の要素を持った人物の例として、田中角栄やホリエモン、孫正義などを挙げている。起業家の名前が挙がるのは意外な感じもするが、反知性主義は「神の祝福とこの世の成功が直結する」というアメリカのキリスト教の考えに裏打ちされたものでもあり、経済的・社会的成功との相性は抜群に良いのだそうだ。

 本書を読み終えて日本の社会について考えてみると、旧来の知性への反逆……という点では、文系学部の転換・廃止の流れも、反知性主義の一面に見える。近年アメリカのスタジアムで開催される娯楽的・熱狂的な伝道集会の様子は、日本の『24時間テレビ』のチャリティーと重なる部分が感じられた。

 一方で、政府への不満を訴えるデモが増えている点などは、反知性主義のポジティブな表れとも見えるだろう。なおアメリカの反知性主義と信仰復興運動は、奴隷制度廃止運動や、女性の権利拡張運動、公民権運動などにも大きな影響を与えてきたそうだ。

 日本ではネガティブな意味合いでばかり使われる反知性主義だが、このようにポジティブな側面もあるし、現在の日本社会を考える上で参考になる点は間違いなく多い。今こそ読むべき一冊だ。

文=古澤誠一郎