長生きで超平和主義…思わず人に話したくなる「金魚」のディープなあれこれ

生活

2015/10/10

『金魚はすごい  (講談社+α新書)』(吉田 信行/講談社)
『金魚はすごい』(吉田 信行/講談社)

 「アートアクアリウム展」が人気だ。中でも、日本人に親しみ深い“金魚”を取り扱った「アートアクアリウム展 金魚シリーズ」は日本全国各地で開催されるにとどまらず、2015年にはイタリアのミラノでも催される人気イベントとなっている。ふすまをモチーフとした幅3m以上もある水槽に金魚を入れ、そこにバーチャルな映像を投射して、変幻自在に変わり続けるふすま絵を表現した巨大アートは、観る者の心を捉えて離さない。

 現在、世界市場に出回っている金魚の大半が中国産で、日本で出回っているじつに約4分の1は中国産。そんな状況に「悔しくはあるが」と前置きしたうえで、「それでも“なごみの使者”が、紛争絶えない地域にも広まっていくのは嬉しいことだ」と述懐するのは、『金魚はすごい』(講談社)の著者で、江戸時代から続く老舗金魚店を切り盛りする“金魚界の生き字引”的存在の吉田信行氏だ。

 金魚の多様性は、劣性遺伝の突然変異を利用して人工的に生み出された“奇形”に支えられているが、そんな金魚たちは想像以上に長生きであり、超平和主義で、誰もが認める愛くるしい姿から、世界平和に一役買っているのだ。夏祭りの金魚すくいで手軽に手に入れられる金魚だが、思わず人に話したくなるディープなあれこれがギュッと詰まっている。

【長生き】
金魚すくいでとってきた金魚は、うまく育てると12~13年も生きる。12年というと、小学1年生が高校を卒業する年月。思春期をまるまる共に生きることができる。ちなみに、ギネスブックには43年の記録が載っている。すぐに死んでしまうのは、飼われている環境のストレス、金魚すくいでいろいろな客に追いかけまわされて弱っていたから、などが考えられる。

【強靭な生命力】
変温動物の中でも、水温の変化への対応力が高い。人間のように服を着たりカイロを身につけたりせず、ハダカで1℃から34℃まで順応できる。人間は1℃の差すらあまりわからないが、金魚は0.03℃の変化も敏感に察知する。

【超平和主義】
金魚同士で争わない。メスが卵を産むと、オスたちは争うことなくそれぞれの精子をかけていく。人間では考えにくい。

【なごみの使者】
「平和な時代には、金魚が流行する」といわれる。観賞魚用品で有名なジェックス株式会社と岐阜大学を中心としたチームの実験で、パソコン作業のあとに金魚など観賞魚を7分以上眺めた人は、7分以内しか眺めなかった人に比べて心拍変動が下がりリラックスしていることがわかった。さらに、観賞魚のいる空間にいた群で「リラックスした」と回答した人の唾液アミラーゼ(ストレスマーカー)の分泌が減っていた。本書では、家庭や職場に金魚水槽を置くだけで、家族関係がよくなったり、仕事の能率が上がったりする可能性に言及している。ひょっとすると、「金魚が流行すると、平和な時代になる」のかもしれない。

 現代では、命が軽くみられる傾向にある、という意見がある。確かに、核家族化でおじいちゃんやおばあちゃんと離れて暮らす子どもは、現実の場で“死”と向き合うことがほとんどない、といえるかもしれない。長い時間を共に生き、毎日なごませてくれた金魚が最期にくれるプレゼントは、死に対する畏敬の念と、命の価値観。そう考えると、小さな体に秘められたポテンシャルに敬服せざるを得ない。

文=ルートつつみ