顔を上げず、小声で話す部下への対処法―職場でも使える、行動分析学とは?

ビジネス

公開日:2015/10/21

「なんでこの人は、こんなことを?」と、相手の行動に不満をもつことがあるはずです。そんな時に使えるのが「行動分析学」です。

行動分析学とは、「人がなぜそのように行動するのか」ということについて、その人がそのように行動する原因を、その行動を変えながら見つけようと探究する、心理学の一分野です。……なんて、書かれてもよくわからないですよね。

しかし実は、私たちの職場でもマネジメント手法として使うことができる便利なものなのです。

advertisement

行動には理由がある

自分の部下とどう接すればいいのか、部下との接し方は、リーダーや管理職の共通の悩みです。つい、昔の自分を思い出しながら、「最近の若者は…」「ゆとり世代だからな」「あいつは年上との関わり方も知らないのか?」などと、部下の行動に対して日々首をかしげてしまいます。

でもそれは、本当に部下の性格や能力のせいなのでしょうか?
 
「あの先輩、仕事の仕方について話すとすぐ不機嫌になる」「指示された通りにやっているのにいつも怒られる」など、部下は部下で上司に不満をもっているケースもよく見られます。

部下には部下なりの、行動の理由があるのです。
たとえば、部下についての次のような悩みを例に、どういった対応をとればいいのか、考えてみましょう。

まずは相手の状態を分析する

あなたは、売上が伸び悩んでいる、商社の営業部門の統括者です。

新人営業部員のX君。売上報告の会議中に、ずっと下を向いたままで、発言しません。
あなたが「なにか意見はないか」と聞いてみても、小さな声で下を向いてボソボソと話すだけ。
「聞こえないぞ」と注意をしても、その時は少し大きな声で話し始めますが、すぐに元にもどります。

こういった場面で「あいつは積極性に欠けるな」「困ったものだ」と、単純に評価を下してあきらめてしまっては、問題は解決しません。

まずは、なぜそうなったのか、原因を考えてみることが重要です。たとえばX君はこの時、以下のような状態になっているかもしれません。

「先月の営業成績に対する発言を求められ(A:先行事象)」
「発言すると(B:標的行動)」
「上司にどうなっているんだと怖い顔で返答される(C:後続事象)」
(行動分析学では、(A)を先行事象、(B)を標的行動、(C)を後続事象と呼びます。)

このように分けて考えると、X君は上司の「怖い顔」を見たくないために、下を向いたまま、話しているのではないか? 自分の先月の営業成績に自信がないため、ボソボソと自信のない話し方になってしまうのではないか? というように、部下がとる行動の原因を推定することができます。

推定した原因をもとに、対応を考えてみる

原因が推定できたら、そのうえで、対応を考えます。
まず、上記のうち後続事象(C)を変えるという選択肢があります。 

「先月の営業成績に対する発言を求められ(A)」
「発言すると(B)」
「上司が笑顔で話を聞いてくれる(C)」

これなら、発言をしても上司は笑顔で話を聞いてくれると部下は感じ、会議の席では上を向き、人の顔を見て話すようになる可能性があります。

しかし、多くの人は、成績が悪いという報告を笑顔で聞くなんて不自然だし、できないと考えるでしょう。その場合は別の対処法を考えてみます。

たとえば、ここで挙げた「標的行動(B)」自体が適切なものなのか、それを変えることでうまくいく方法がないのか、考えてみましょう。
つまり、会議の場で発言させることが難しいようであれば、「営業成績や売上についての説得力のある資料を事前に作らせ、会議で配付し参加者に伝える」ことを標的行動に設定してみることが考えられます。

「発言」を「資料作成」に置き換えるという逆転の発想ですが、X君に、自分の意思を周りに伝えさせるという目的にはかないます。

たとえ会議中はなかなか発言できないとしても、資料で、自分自身が考える営業成績に対する現状と原因、打開策を相手にわかりやすく伝える。そうすれば上司や周りの人は、それを理解したうえで「取引先に持参する資料を変えてみれば」「別の担当者に話しかけてみれば」などと、具体的に指導することができます。
部下の方も、怒られるかとビクビクせずに会議に出席できるので、双方とも望ましい結果になるでしょう。

このように、行動分析学の考え方を職場で実践することで、あなたにも部下にもプラスの影響を及ぼすようなマネジメント手法を模索することができます。部下指導でお困りの方はもちろん、これから人を動かす立場になる方には、今回の内容がさらに詳しく記された『リーダーのための行動分析学入門』(島宗理/日本実業出版社)がおすすめです。

効果的な部下指導の手法について、学んでみてはいかがでしょう。


■『リーダーのための行動分析学入門
著:島宗理
価格:1800円(+税)
発売日:2015年09月17日(木)
出版:日本実業出版社

文=日本実業出版社