“相方の死”をどうやって乗り越えれば良い…? 喪失感からの再生を描いた芸人BL『明日はきみと笑うシャラララ』は、ラストシーンで号泣必至

マンガ

公開日:2015/10/20

『明日はきみと笑うシャラララ』(くもはばき:著、奈良千春:イラスト/白泉社)
『明日はきみと笑うシャラララ』(くもはばき:著、奈良千春:イラスト/白泉社)

 芸人、とくにコンビで活動している人たちの関係性というのは不思議なものだ。それはときに、“夫婦”のように密接で、本当の意味での“パートナー”となり得る。そんなコンビ芸人を主役にしたBLとして話題を集めているのが、『明日はきみと笑うシャラララ』(くもはばき:著、奈良千春:イラスト/白泉社)。本作は、「第3回花丸WEB新人大賞」を受賞した、くもはばき氏による鮮烈なデビュー作だ。

 主人公となるのは、人気お笑いコンビ「らんな~ず」のツッコミだった片山。どうして“だった”と過去形なのかというと、コンビ「らんな~ず」は、もう存在しないから。相方だった中本は、膵臓がんで亡くなってしまったのだ…。

 中本の死からは7年が経っているものの、片山はいまだその事実を受け入れられない。表舞台からは身を引き、いまは放送作家として荒んだ生活を送っている。そんな片山のもとへやってきたのが、ハウスキーパーの広川。彼は無口で感情を表に出さないが、仕事ぶりは真面目そのもの。キレイに片付けられた空間で、心のこもった手料理を食べるうちに、片山は自然と広川に対して愛情めいたものを抱くようになっていく。

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 けれど、やはり中本のことは簡単に忘れられない。それなのに、周囲は「早く忘れろ」と急かす。中本の妻・とも代までもが、「再婚する」と言い出し、片山はみなに裏切られた心持ちに。そしてある晩、やけっぱちになった彼は、強引に広川とカラダを重ねてしまい、その結果、広川は「僕は中本さんやない!」と片山のもとを去っていく…。

 大切な人を亡くした人間の気持ちは、当事者にしかわからない。それと同時に、その傷をどう癒やすのかも、当事者自身でなければ決められないことなのだ。少しずつ前に進む者もいれば、片山のようにいつまでもその場に縛り付けられる者もいるだろう。けれど、それは良いことなのか悪いことなのか。

 そんな片山の暗澹たる気持ちを打ち砕くのが、同期芸人のこんな言葉。「中本はずっと生きとる」。そう、中本は片山が放送作家として書くコントのなかで、いまも生きている。片山が生み出す“笑い”のなかに、中本のカケラは光っているのだ。それにようやく気がついた片山は、表舞台に復帰することを決意する。中本のため、自分のため、そして深く傷つけてしまった広川のために。

 新しい恋をして幸せに生きていくことは、決して故人を裏切ることではない。そんな思いを胸に、片山は舞台上から、広川への想いを吐露する。それを受けた広川は、片山をどう迎えてくれるのか…。

 本作はBLであると同時に、「お笑い」とはなんなのか、その哲学に言及した作品でもある。いわば、「BL版火花」といったところか。自分のなかにある迷い・葛藤を乗り越え、片山が見つけ出した「お笑い」とは? その答えもまた、読みどころのひとつだろう。

 BLとは謳っているものの、絡みのシーンは全体の1割ほど。メインとなるのは、「大切な人の死」を中心とした人間ドラマ。だからこそ、男性諸君、BL初心者に読んでもらいたい。ラストシーン、ぼくは涙が止まらなかった。

文=前田レゴ