ミシマ社、夏葉社、赤々舎…… 出版界の未来を映す“ひとり出版社”という働き方

ビジネス

2015/10/16

『“ひとり出版社”という働きかた』(西山雅子 編/河出書房新社)
『“ひとり出版社”という働きかた』(西山雅子 編/河出書房新社)

 ここ数年、たった1人や数人で出版社を立ち上げる人たちが注目を浴びている。

 内田樹氏の著作を複数手がけているミシマ社や、編集未経験からの単身起業の様子が『あしたから出版社』(島田潤一郎/晶文社)という本にもなった夏葉社はその代表例。“写真界の芥川賞”と呼ばれる、木村伊兵衛写真賞の受賞作を次々と送り出す赤々舎も、代表の姫野希美氏が営業社員と2人で立ち上げた出版社だ。

 上記の出版社を含めた、個人レベルに近い小規模出版社が多数紹介されているのが、『“ひとり出版社”という働きかた』(西山雅子 編/河出書房新社)。10の出版社代表へのロングインタビューのほか、ブックレーベルを持つ書店&ギャラリーまで紹介する、近年の“ひとり出版社”ムーブメントを一望できる1冊だ。

 全体の雰囲気としては、出版社の立ち上げ・運営のノウハウをまとめた“ハウツー本”という色合いは薄め。個人レベルで出版業を営む人びとの生き方・働き方や、本作りに対する思いを聞いた、読み物の性質が強い内容になっている。

 また、「ひとり出版社の仕事はこんなに楽しい!」と煽るような空気もない。登場する本の作り手は、いわゆる“自分のやりたいことをやっている”人たちで、その生き様は魅力的でも楽しそうでもあるのだが、出版不況の昨今、やはり苦労も多そうに見える。

 ちょっと昔の大手出版社の一般書であれば、初版の部数(最初に印刷する部数)が1万部、8000部というのは普通だったが、本書に登場する出版社が明かす初版部数には、2000部や1000部、中には数百部というものもある。「経費を差し引くと利益はない」という声も見られたし、ほかに本業がある人もいた。他社の刊行物の仕事を外注で受ける、いわゆる編プロ(編集プロダクション)業務を行っている人もいた。

 だが、そのような苦境の中で、新たな出版社のあり方を模索している人も紹介されている。

 たとえば瀬戸内海の小豆島に拠点を置くサウダージ・ブックスは、地元企業の広報誌制作などで地域との関わりを深めながら、自社の刊行物も手がけていて、夢は「瀬戸内海の高校に求人を出して入社してもらうこと」。すでにインターンの受け入れも始めていて、地元で出版業に関わる若い作り手が出てくることを期待しているという。

 また、刊行する書籍の部数が少ないことも、一概に悪いこととは言えない。1000部限定の書籍からスタートしたミルブックスの藤原康二氏は、本書で「うちはひとりでやっているぶん何十万部も売れなくてもいい。大手だと売れないという理由で潰されてしまうような、作家さんのいい部分や個性をうまく残しつつ、ビジネスとしてどう成功させるか」と述べていた。

 本書に登場する本の作り手たちには、「ひとり出版社におけるSNSでの宣伝の大切さ」について言及する人も多い。今の時代、何十万部も売れる本を作ることは困難になったが、「1000人、2000人ほどの人たちが喜べる、楽しめる本を作り、それを確実に届ける」ということには、以前よりトライしやすくなった面もあるのだろう。またそれを行動に移せるのは、大手出版社にはない、ひとり出版社ならではの武器だ。

 出版不況や業界の先細り……という言葉ばかりが聞かれる昨今だが、時代状況が変化する中で、新たな道を選んで、業界の未来を切り開いている人たちもいる。その象徴である“ひとり出版社”にクローズアップした本書は、今の時代ならではの本作りの厳しさと楽しさ、そして出版界の歩むべき未来へのヒントが詰まった1冊と言えるだろう。

文=古澤誠一郎