10分間だけすべての望みを叶えてくれる、妙齢のメイドが格好良い!

マンガ

公開日:2015/10/21

『10ミニッツ メイド』(水寺葛/講談社)
『10ミニッツ メイド』(水寺葛/講談社)

 あなたはもし突然、妙齢のメイドに「これから10分間だけ、すべての望みを叶えます」と言われたら、一体何をお願いするだろうか? 筆者は数日間、散々考えたのだが、結局「お風呂掃除」くらいしか思いつかなかった。そもそも、10分というのが短すぎる。これがもし、若くてイケメンの執事であれば「一緒に写真を撮ってください」「お姫様抱っこをしてください」「壁ドンしてください」など、低俗なお願いを次々と繰り出す自信があるのだが、相手はポーカーフェイスで冗談の通じなそうなメイドである。選択肢は限られているような気がしてならない。

 ところがどっこい、水寺葛のマンガ『10ミニッツ メイド』(講談社)に登場する妙齢のメイドは、そんな心配とは無用の、別格の女性なのである。彼女は、雑用を完璧にこなすのはもちろんのこと、人心掌握術まで身につけているだろう……と疑いたくなるような、「メイド」という枠に収まらない仕事ぶりを見せるのだ。

 とあるジュースのふたを開けると飛び出してくる彼女は、自身のことを「10(テン)ミニッツ メイド」と名乗る。彼女は、10分間だけ何でも望みを叶えることを約束し、10分たったら跡形なく消え去ってしまうことを告げる。

 本書は、9編の物語が収録されており、10分という短い時間が16ページにわたって描かれている。彼女と対面することになるのは、締め切り間近のイラストレーターや、恋人と別れることを決意したものの、ある物をとり戻したい女性、両親の帰りを一人で留守番しながら待つ幼女、はたまた魔法のランプを探す盗賊たちである。

 彼らはメイドに、紅茶を入れてもらったり、掃除をお願いしたりするのだが、メイドはお願いされた雑用をすばやく完璧にこなすだけではなく、主人が心に秘めている、口に出せない欲望までをも同時に見抜き、解決へと導いていく。

 例えば、幼い頃から母親を支え、周囲に弱気な姿を見せることがない北海道出身の消防士の男性は、メイドと共に“本州サイズ”の大きめのゴキブリを退治することになる。北海道出身の消防士は、実は大きいゴキブリを見たのが初めて(北海道のゴキブリは小さいのだ)。首筋が真っ赤になって湿疹が出るほど身体に拒絶反応が現れているのだが、恐怖を口に出すことができない。

 そこでメイドは、首筋を引っ掻く彼の手を身体ごと自分にグイと引き寄せ、「他人のSOSばかりでなく、どうぞ御自分のお体のSOSにもご傾聴下さいませ旦那様」と告げる。そして、一瞬の隙を突きゴキブリを退治してしまうのだ。

 ゴキブリを退治してくれたメイドに、すっかり安心感を抱いた消防士。その後湿疹は、無事に首筋から消えるのだが、いつも誰かを守る立場だった彼が、逆の立場になり、心から安心する様子が見事に描かれている。わずか10分間の出来事だが、顔がほころんでしまった。

 また本書では、各話に、今すぐにでも日常生活で使える「うんちく」も語られている。「美味しい紅茶の入れ方」や「バスルームの水汚れの落とし方」「室内で猫が粗相した場所の見つけ方」など、メイドがご主人様に驚きの方法を披露してみせるのも、新鮮で興味深い。

 10分という短い時間で、日常の雑事だけでなく、心に秘めた望みまでをも見抜き、時には復讐までをも請け負い、解決へと導くメイド――。どんな難題にも応える彼女に、不可能なことはない。

 ミニッツとメイドという名がついた例のジュースならいくらでも買うから、5分でいい。自分の所にも来てほしい……と心の底から感じた、ちょっと不思議でハイセンスなメイド物語である。

文=さゆ