ダルビッシュ、田中将大…日本人投手がメジャーで故障する理由とは?

スポーツ

更新日:2016/3/14

『日本人投手がメジャーで故障する理由』(小宮山悟/双葉社)

 なぜ日本人投手はメジャーで肘を故障するのか?

 中日ドラゴンズの山本昌選手が、現役最後のマウンドに立ち、史上初の50歳登板を記録した。通算32年間のプロ野球人生を、ドラ一筋で投げ切った「レジェンド」だが、プロ入り5年目(1988年の米国留学時代)には、メジャーからの誘いもあったという。もし実現していたら、果たして50歳の現役投手は存在しただろうか? ケガをして、短命に終わったのではないか、と考えてしまう。

 それほどに、MLBで活躍する日本人投手の「肘の故障」問題は深刻だ。ダルビッシュ有、田中将大、松坂大輔、和田毅、藤川球児……メジャーで活躍するも、移籍後ほどなくして肘を故障し、多くの選手がメスを入れた。日本で何年も活躍してきたプロの投手が、なぜメジャー移籍後に肘を故障してしまうのだろうか?

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 メジャー経験もある元プロ野球投手・小宮山悟氏が、自身の経験や日米の野球環境の違いなど、様々な角度から「肘の故障」の原因を考察した一冊『日本人投手がメジャーで故障する理由』(双葉社)に、その答えを探ってみた。

肘の故障は、複数の要因が密接にからみあう

 本書で、小宮山氏が推察する「肘の故障の原因」をまとめると以下のようになる。

・子どもの頃の投げ過ぎ
・変化球(特にスライダー)の多投
・正しくない投球フォーム
・馬革で滑りやすくサイズも重さも大きいメジャー公式球
・「中4日先発5人」によるMLBのローテーション

 肘の故障の原因は、医学的・科学的な解明はされていないが、多くの元選手や専門家も同様の見解を示していることは、見逃せない。経験者が知る「感触」があるのだ。そして、その一人である小宮山氏は、これらが関連して故障を招くという。

 小宮山氏は現役時代、ピッチングコーチのトム・ハウス氏から「1年間故障をせずに、コンスタントに投げて、投手生命を1年でも長くしなさい」と、最初に指導されたという。日本ではかつて「荒々しく投げる」のが良いとされ、小宮山氏も「バッターを抑えるために、全身を使って力強く投げる」のが当然だと考えていた。

 しかし、それは力学的に無駄が多く、身体のどこかに負担を強いて、故障のリスクが高まる。回避するためには正しいピッチングフォーム――「重心を安定させるためのバランス、上げた足を下ろす方向、投球時の球離れ、最大限の力をボールに与えるための体重移動――この4つの投球構造を正しく理解し身に付けること」――が必要になる。トム氏はそれを「おとなしく投げる」と言い表した。

 だが、メジャーのマウンドでは、「おとなしく投げる」のが難しい。メジャー球は馬革で、牛革の日本球と比べて滑りやすい。スッポ抜けないよう強くグリップすれば腕や肘に負担がかかる。また、剛打者揃いのメジャーでは、無意識のうちに力んでしまうことがあるという。結果、出力過多となり、故障につながってしまう。

ダルビッシュも問題視「中4日は絶対に短い。」

 だが、それ以上に問題視されるべきは「MLBの先発ローテーション」だ。

「中4日は絶対に短い。投球数はほとんど関係ないです。120球、140球投げても、中6日あれば靭帯の炎症も全部クリーンにとれる」

 2014年のオールスターゲームの前日記者会見での、ダルビッシュ選手が声を上げた。月曜定休の日本のプロ野球は「中6日・6人」が主流だが、不定休のMLBでは「中4日・5人」。MLBでは「消耗品」である投手の肩や肘を護るべく「100球」の投球数制限を設けているが、年間試合数から逆算すると意外な数字が浮かび上がる。

 MLB投手は、年間32試合に先発し、制限いっぱい投げると、投球数は3200。対して、日本は概ね24試合先発、1試合=140球とすると年間3400球。その差は200球程度でしかない。それでも、2013年時点の先発投手360人中、124人がトミー・ジョン手術(肘の靭帯移植手術)を受けているという。球数制限による選手の保護があまり効果的でないのは明らかだ。

 「日米48時間の差」が疲労回復・炎症解消に必要な時間だとするなら、「中4日のローテーション」を真剣に議論し、調査や検証を行うべきだ。治療からリハビリ・復帰までの1~2年を失う選手のためにも、その選手を待っているファンのためにも。だが、MLBで「中4日」を問題提議する動きは、ない。

 1試合でも多く投げさせたい球団、登板数が減ることで年俸が下がることを嫌がり中4日を受け入れてしまう投手、中6日が成立しにくい試合スケジュール……メジャーに蔓延する肘の故障の最大の原因は、スポーツビジネスにまつわる「ビッグマネー」なのかもしれない。

文=水陶マコト