教科書に登場するあの万葉歌人の年収は1400万!? 歴史上の人物とお金の話

社会

公開日:2015/10/23

『日本人の給与明細 古典で読み解く物価事情』(山口博/KADOKAWA)
『日本人の給与明細 古典で読み解く物価事情』(山口博/KADOKAWA)

 歴史上の人物の「収入」を気にしたことはあるだろうか?

 貴族でも武士でも、当然天皇でも、収入がなければ生活が出来ないのに、昔の人がどれだけ稼いでいたのか、教科書には載っていない。

 今も昔も、お金は大切だ。戦乱の歴史を繙いていくと、世の中が乱れ、戦が頻発する一因に、「金欠」が挙げられることも、少なからずあるほどだ。

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 『日本人の給与明細 古典で読み解く物価事情』(山口博/KADOKAWA)では、歴史上の人物の給料をはじめ、「支払い方法」「ボーナス」、または「物価」や「官位の値段」など、様々なお金に関する情報が掲載されている。

 内容の一部を紹介してみよう。ちなみに、昔は現物や土地、米での収入だったために、単純に現在の貨幣価値に置き換えることが出来ない。そこで、米価は諸流通米の標準に換算し、米1キロ500円、1升800円として現在の貨幣価値と比較させている。

○山上憶良(やまのうえのおくら)の場合

 8世紀前半に活躍した歌人。万葉集にもその歌が多く収められている、一流の万葉歌人として名高い。彼は中級官僚だったので、れっきとした国家公務員だった。その年収はなんと1400万円。中級でも、さすが官僚。庶民が一汁一菜で、玄米に野菜といった粗末な食事をしているところ、彼は一汁五菜。白米に肉や魚を食べている。

 彼は「貧窮問答歌」という、貧しい農民の暮らしを詠った和歌を残していることから、彼自身もそういった生活をしていたと思われがちだが、実際はかけ離れた生活をしていたようだ。

 この時代、律令国家における官僚たちは、一日に2升(約8合)の米を支給され、その他にも年2回、絹織物や綿などを支給されるボーナスがあり、土地なども「給料」としてもらっていた。

 ちなみに、現在でいうところの内閣総理大臣にあたる「左大臣」(官僚制度のトップ)の年収は、4億5000万円だという。

○兼好法師の場合

 兼好法師は鎌倉時代に『徒然草』を記した文化人だ。元々は中級官僚の家柄で、兼好自身も昔は六位(年収600万~700万円)と五位(年収1400万円)を経た官僚だった。しかし29歳で出家して、サラリーマン生活をおさらばするのである。

 以後、生計を立てるために「土地転がし」を行っている。田地一町を90貫文(432万円)で購入した。だが兼好は、この土地に住むわけでも、農耕を営むわけでもなく、その土地にいた小作人5人から、年貢米10石(80万円)を差し出すように契約を結ぶ。つまり、兼好は土地を買ったというより、10石の年貢取得権を得たと言える。

 何年か経ち、毎年入って来る年貢米が購入した土地の値段を超え、元が取れると、兼好はその土地を30貫文(140万円)で売却。90貫文で買った土地を30貫文で売るのは、損をしたように思えるが、既に90貫文は元を取っているので、実質30貫文すべて儲けとなる。

 こういった「土地転がし」を、兼好は文化的な活動と共に、生計を立てるために行っていた。

「法師」というと、お布施や残り物などを食して、その日暮らしをしているようなイメージがあるが、そんなことはなく、生きていくための経済的営為をしっかり行っていたのである。

 その他にも、「光源氏の豪邸の価格」(平安時代)、「アルバイトをする貴族」(室町時代)、「商社マンの誕生」(江戸時代)、「コピーライター平賀源内」(江戸時代)、「中堅武士の生活白書」など、様々な視点から、人々の「お金事情」を紹介している。

 古典(物語)を参考にしていることもあり、お金の話といえど、小難しい数字が並ぶばかりではなく、読み物としても楽しめる。

 更には、古代から江戸時代までの物価表が巻末付録として一覧になっているので、当時の米の値段や調味料、布地、筆記用具といった日常道具の値段も早見することが出来る。文庫とは思えないほどの、豊富な情報量だ。

 時代小説が好きな人は、本書を片手にもう一度小説を読み直してみよう。主人公の収入や、買った物の値段の相場などが分かり、より一層理解を深めることが出来るはず。歴史好きには読んでもらいたい一冊だが、他人の収入に興味のある方にも、ぜひ手に取ってもらいたい。

文=雨野裾