「すーちゃん」に学ぶ、独り身の不安との付き合い方

恋愛・結婚

公開日:2015/10/24

 現代日本の女性の生涯未婚率は10%を超えるとされ、将来的にはさらに増加するといわれています。かくいう私も、そんな独身オンナのひとり。ご縁がなかったのか何なのか、仕事と趣味に明け暮れている間に、周囲は次々と所帯持ちになっていきました。友人の結婚の知らせを聞いては、「私、このまま独りで歳をとっていくのかな?」なんて、どこか他人事のように、思いを巡らせることもしばしばです。

 『結婚しなくていいですか。―すーちゃんの明日』(益田ミリ/幻冬舎)の主人公「すーちゃん」も、そんな未婚女性のひとりです。35歳、カフェの雇われ店長。地道にためてきた貯金は200万くらい。嫌いなことばは「自分探し」……何ともリアルな女性像ではないでしょうか。いかにも、街のどこかで暮らしていそうな、すーちゃんとその友人。ストーリーの中で描かれている彼女たちの心模様は、同世代の独身女性なら、思わず頷いてしまう部分も多いはずです。

advertisement

「老後が、 遠い未来が 今、ここにいるあたしをきゅうくつにしてる」

 これは作中で、ヨガ教室へ通おうか悩んでいるすーちゃんが、ふと考えてしまったことです。教室の月謝を見ながら、「月1万円を老後の貯えにしていけば……」と悩む、すーちゃん。似たような経験をされたことがある方も、いらっしゃるのではないでしょうか。

 周囲からの無神経なことばや、惹かれていた人への落胆。老いゆく家族に対する心境の変化など、多くの独身女性が経験するできごとに、すーちゃんたちもやはり遭遇します。

「ひとり暮らしってそんなにエラいのかな 『いつまでも実家にいて』って目で見る人もいるけど、 こっちにだっていろいろあるわけで」
「介護要員のための嫁を探してる男に つかまらないように」
「お腹に赤ちゃんがいる人に 他の話をするのも失礼なのかなって」

 生々しい描写こそないものの、すーちゃんやその友人たちの心情は、多くの女性の胸に突き刺さるものがあります。

 ある日、いつの間にか歳をとっていることに気付いたすーちゃんは、自分の最期が心配になります。心の整理をするために、「遺言でも書いてみるか?」とひらめいて、本屋さんへ。手引書を読みながら、何だ簡単じゃないかと思ったところで、こんなことに気付くのです。

「不安なのは、老いている自分 老いて、おばあさんになった時に 生きているのがつらいと思っている状況だったら って想像すると不安になってくるんだ」

 未婚なんて気楽でいいね、なんていう人も居るけれど、独身者の日常にだって、気苦労はあふれかえっています。自分と向き合う時間が長いだけに、時々襲ってくる、将来への漠然とした憂い。くしゃくしゃっと丸めて投げ捨ててしまいたくなる暗い気持ちはひょっとしたら、文豪・芥川龍之介を殺したといわれる、「ぼんやりした不安」に似たものなのかもしれません。

 そんなもやもやとした気持ちを、すーちゃんたちは一つ一つ、言語化してくれます。ストーリーを読み進めながらの追体験は、塞がったはずの傷口をなぞられるような痛みを感じるかもしれません。それでも、読み終えた頃には何となく、自分のこれからの生き方に、道標を貰えたような温かさを感じられるはずです。

 20~40代の女性を中心に根強い人気を誇る、この「すーちゃん」シリーズ。書籍の売り上げが好調なほか、2013年には映像化もされています。書籍を先に読んで、キャスティングの妙に浸るも良し。映像を先に見て、原作で「答え合わせ」を楽しむも良し。夜が長くなるこの季節に、しっとり味わえる作品です。

文=神田はるよ