異世界の“食”を描いた作品が人気 ―垣間見えるファンタジーの世界のお食事事情

マンガ

公開日:2015/10/24

 アニメやライトノベルの世界で今、異世界が熱い! 本屋に行けば何かしら「異世界の~」と名のついた本が売られている。その異世界ものの流れは料理を題材にした小説や漫画の世界にも流れている。

 突然現れたダンジョンで、モンスターを食材として狩り、調理し、食べるまでを描く『ダンジョン飯』(九井諒子/KADOKAWA)は、RPGのプレイヤーがいつも疑問に感じていた「冒険中の食事をどうしているのか?」という部分に答える形で、それぞれのモンスターに合わせた調理方法や味を披露している。作中に出てくるスライムたちが料理に変わる――ある意味ゲテモノ料理ばかりなのだが、なぜか美味しそうに思えてしまうから人間の食欲というのは不思議だ。

advertisement

 同じ異世界モノでありながら冒険者ではなく、料理人目線で描かれた小説が『異世界料理道』(EDA:著、こちも:イラスト/ホビージャパン)だ。現代から異世界へ迷い込んだ見習い料理人の主人公が、その土地で見たことも聞いたこともない食材と悪戦苦闘しながら、モンスターや不可思議な野菜を「食べられる料理」から「おいしいご馳走」に変えていく。

 なかでもギバと呼ばれるイノシシのようなモンスターを仕留めてからの解体シーンは壮絶だ。巨大なギバの血抜きや皮剥ぎ、のこぎりで1頭のギバを肉に切り分けていく様子は、まるでサバイバル小説のようで読み応えがある。そういった獣の解体や見たこともない食材を「いかにおいしく調理するか」と模索する姿は、謎解きのようでもあり読者を飽きさせない。そして、それらの異世界の食材がおいしい料理に変わった時の感動は、大げさかもしれないが、人類が調理の工程を発明する過程を見ているみたいで面白い。

 異世界モノというと、どうしても「モンスターと戦う」や「戦争に巻き込まれる」というのが定番だ。しかし、ハラハラドキドキするような戦闘の緊張よりも、最近では異世界人と料理を通してのほのぼのとした交流が人気らしい。

 異世界の住民たちと食を通しての交流を描く『異世界食堂』(犬塚惇平:著、エナミカツミ:イラスト/主婦の友社)や『異世界居酒屋「のぶ」』(蝉川夏哉:著、転:イラスト/宝島社)は異世界の住人たちが、突如として現れた現実世界の食堂や居酒屋で交流を楽しむという物語になっている。

 異世界の騎士や番兵たちが、日本の居酒屋で「トリアエズナマ」を頼む光景やトレジャーハンターや魔法使いがメンチカツやホットケーキのために廃坑まで苦労して訪れる様子は、すでに定着しているキャラクター像から考えると、かなり人間臭くて微笑ましい。食を通じて、異世界の住人同士が交流し、日本食のおいしさに感動する姿は、外国人が日本料理に感動する姿によく似ている。その光景はフィクションだと分かっていても、なぜかニヤニヤしてしまう。

 また『異世界でカフェを開店しました。』(甘沢林檎:著、11〈トイチ〉:イラスト/アルファポリス)で、主人公の女性が、精霊や街の人々と協力しながら異世界でカフェの経営者として恋に仕事に奮闘する姿は可愛らしく、読んでいるこちらも応援したくなるほどだ。

 さて、異世界の料理なんてどうせ食べられないだろうと高を括っている方に朗報だ。異世界の料理を私たちの世界でも食べることが出来るぞ!

バルサの食卓』(上橋菜穂子:著、チーム北海道:著/新潮社)は、「精霊の守り人」シリーズに登場する料理を日本に手に入る食材だけで再現してしまった、夢のような一冊だ。見るだけでヨダレが出てきそうな異世界メシを再現し、写真に収め、そのレシピをグラム単位まで記載しているという異世界の料理書だ。

「異世界」といえばこれまで剣や魔法で戦う勇者たちが作品のメインだったが、これからは異世界での料理が作品のメインとして描かれることが増えてくるかもしれない。異世界での戦いの日々や可愛らしい女の子たちとの冒険にちょっと食傷気味なら、このような作品に手を伸ばしてお腹を空かせてみてはどうだろう。

文=山本浩輔