俳優・神木隆之介が15人のスペシャリストに「仕事論」を聞く!

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/17

 働いていると、ふと「日々の仕事を頑張るために、人はどんなところに喜びを感じているのか」と気になることがある。それは自分の可能性を広げたいと願う、成長のときなのかもしれない。見聞を広めるために出かけ、見知らぬ世界に属する人を知ることで、自分が何を吸収し、活かせるかを試したいような気持ち――。

 現在、映画『バクマン』やドラマ『サムライせんせい』で、いつものように“只者ではない”雰囲気を醸している俳優・神木隆之介。7歳のドラマデビュー以降、コンスタントに映画やドラマでいい味を出し続けている彼も、気付けばもう22歳!

advertisement

 いつも無理なく、心地よく役柄にフィットして演じている(ように見える)彼も、芸能界で走り続けていくうちに、冒頭のような成長機会を得たいと感じたのだろうか。彼自身が、15人の“大人”にインタビューをしたスペシャルトーク集『神木隆之介のMaster’s Café 達人たちの夢の叶えかた』(マガジンハウス)が発売された。

 この本は神木が20歳から22歳になるまでの2年間、雑誌『anan』誌上でおこなわれた連載のまとめに、特別対談を追加収録したもの。彼がインタビュアーとなって話を聞いたこの対談集を通して、成長する様を追うこともできる。
ずらりと並んだ15人は、全員が各界の第一線で活躍するプロフェッショナルたちだが、その人選は意外と「渋い」。有名社長やセレブリティの姿はなく、普通の男の子が「こんな人に話を聞いたら面白そうだな!」と、わくわくして挙げたような人選だ。

 一例を挙げると、JAXA宇宙飛行士の野口総一氏やロボットクリエイターの高橋智隆氏、天文学者の渡部潤一氏など理系の専門家を相手に、目を輝かせながら(という姿が想像できる)あれこれ質問していることもあれば、グラフィックデザイナーの佐藤卓氏、漫画家の浦沢直樹氏、小説家の辻村深月氏などが語る物づくりのプロセスについて聞き入っていることもある。また、サッカー日本女子代表監督の佐々木則夫氏や、車いすテニスプレーヤーの国枝慎吾氏とスポーツの魅力を語り合うこともあれば、哲学者の岸見一郎氏との対話ではカウンセリングを受けたような発見を得る。

15人のスペシャリストたちが語る言葉はどれも人生哲学に満ちていて、各自が運命を共にすると決めた道を、覚悟をもって極めている様子がうかがえる。しかし、同時に情熱とユーモアをあわせ持ち、仕事の「楽しみどころ」を上手に見つけているのも特徴だ。

 それらの特徴を引き出しているのは、神木隆之介自身だ。浦沢直樹氏へのインタビュー中に「僕、誰とでも絶対に仲良くなれる自信がある」と語っているように、好奇心全開の彼はとても聞き上手! 相手の話を受けて、想像しにくいものは「僕の仕事に置き換えてみると」「僕もこういう経験があるのですが」など自分に置き換えて質問しているので、読んでいる側も想像がしやすい。神木が相手の話に惹き込まれ、他人事ではない自分事として受け止めていることが、そのまま読者に伝わってくるのだ。

 本書のタイトルは「夢の叶えかた」とあり、確かに夢をつかんだスペシャリストが語る内容は、新たな夢に向かって進んでいく若者にとって心強いとなるものだろう。だが、すでに仕事に就いている(そしてちょっと疲れた)大人にとっても、得るところがいっぱいだ。彼らの仕事論を聞いて身が引き締まる思いがすると同時に、仕事の「楽しみどころ」を聞くうちに、いかに自分が日々の仕事に慣れきって、それを見つける努力を忘れていたかを思い出す。

 そして、そんな言葉を聞くために、未知なる世界で働く人の声を聞きに行きたくなってくる。好奇心旺盛な神木の姿勢を真似て、人に仕事について質問してみたくなる――そんなインタビュー集だ。

文=富永明子