松坂桃李主演で実写ドラマ化! 視力以外の感覚を失った探偵のファンタジックミステリー

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/17

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『探偵・日暮旅人の遺し物』(山口幸三郎/メディアワークス文庫)

 もしもあなたが、五感のうち視覚以外のすべてを失ってしまったらどうするだろう――? どんなにおいしいものを食べても、美しい音楽を聴いても、かぐわしい香りを嗅いでも、大好きな人に触れても、何もわからない。感じない。

 そんな難しい役どころに松坂桃李が挑戦する特別ドラマ『視覚探偵 日暮旅人』が、11月20日(金)、日本テレビの「金曜ロードSHOW!」枠にて放送される。松坂が演じるのは、四感を失ったかわりに視力が異常に発達し、感情さえも“視えて”しまう探偵・日暮旅人。ヒロインの陽子役には多部未華子、松坂演じる旅人の相棒・雪路役には濱田 岳と、実力派俳優たちを据えて織りなされる、少し不思議なファンタジック・ミステリーだ。

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 原作は山口幸三郎『探偵・日暮旅人の探し物』(メディアワークス文庫)。主人公の旅人は、幼い頃に遭遇したある事件をきっかけに四感と両親を失い、復讐心と孤独を抱えて生きてきた。一方で、目を酷使すれば唯一の感覚である視力を失うとわかっているのに、他人の痛みを解決するため、自分を投げ出して世の中のすべてを見ようと奔走する。そんな彼の優しさに救われてきた雪路と、彼と血の繋がらない娘の灯衣(てい)、そして旅人に惹かれる保育士・陽子をめぐる人気シリーズは、今年一月、第八巻『探偵・日暮旅人の望む物』をもってグランドフィナーレを迎えた。

 旅人が解決する事件はハッピー・エンドばかりではない。誤解とすれちがいが生んだ悲劇もあれば、本当の意味で解決できないまましこりとなって残るものもある。そして旅人自身が目の当たりにする両親の死の真相や痛みを伴う裏切りも、最後まで彼に深い傷をおわせる。だが、だからこそ8巻のラストで旅人が見出した救いの光に、読者は心をつかまれるのだ。これほどまでに、「旅人よ、幸せであれ」と願わずにおれない小説も珍しいだろう。謎解きミステリーの体裁をとりながら、本シリーズが徹底して描いているのは“愛”。善意も悪意もひっくるめて、人の心が織りなす複雑怪奇な人間模様を、旅人や陽子たちの目を通してひもといていく物語なのだ。

 実写ドラマ化に先立ち、十月には待望の番外編『探偵・日暮旅人の遺し物』が発売された。タイトルどおり、描かれているのは本編の“遺し物”。著者自身がさまざまな理由で収録をみあわせた秘蔵短編や、旅人が過去に残してきてしまった置き土産、そして「もしあのとき、あの人の想いに気づけていたら」という後悔を描いたIFストーリーなど、本編以上に深い愛が詰め込まれている。

〈生きているだけで喜んでくれる人がいる。そのことに気づけたのなら、それだけで生きる理由だ〉と、旅人に救われた雪路は知った。番外編を読み終わったとき、読者もまたそれを旅人たちから教えてもらうだろう。

愛なんて、言葉にするのはちょっとクサい。だけど本当は、誰よりもまっすぐに愛を求めている。そんな人はぜひ本書を読んで癒されてほしい。

文=立花もも

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