『orange』マンガ家・高野苺、「キャラを薄め」に描いた意図とは?【独占!初インタビュー】

アニメ・マンガ

2015/11/6

青春きらめくSFラブストーリー、堂々完結!
『orange』高野苺インタビュー①

© 高野 苺/双葉社

10 年後の未来の自分から届いた手紙を武器に、恋した男の子を悲劇から救う─。
『orange』は、少女マンガの枠に収まらない、青春の光きらめくSFラブストーリーだ。
この夏、『月刊アクション』における連載がついに完結。
最終巻発売を機に、著者の高野苺さんに、初めて創作秘話を語っていただいた。

 

 長野県の真ん中に位置する古都、松本市。ぐるりと山に囲まれたこのまちは、駅を出て少し歩けばたくさんの名所旧跡を巡ることができる。あがたの森公園、城山公園、四柱神社、弘法山古墳、縄手通り、松本城……。パルコなど、若者向けの施設もしっかり充実している。高野苺はこのまちで暮らし、このまちでマンガを描き続けている。「松本に来た時、時間がゆっくりと流れている感じが好きだなあと思いました。私が前に住んでいた長野のまちと比べると、松本は都会なんですけど、市街地と自然のバランスもちょうど良くて。人と人の距離が近い、あったかい感じがするんです」

 その「あったかさ」が、『orange』の中に流れ込んでいる。

 主人公の高宮菜穂は、松本市内の高校に通う内気な女の子だ。2年生としての生活が始まる始業式の朝、10年後の自分から一通のぶ厚い手紙が届く。〈私と同じ間違いを繰り返さないように、この手紙にこれから起こる出来事と、その時に選んでほしい道を書いておきます〉。

 その文面通りに、東京から転校生がやってくる。名前は成瀬翔(なるせかける)。〈この日、私は翔を好きになる〉。でも、〈10年後の今、翔はここにはいません〉。〈この手紙を書いたのは、16歳の私に、この後悔を一生残してほしくないからです〉。

 未来からの手紙が、彼女を変える。過去が変われば、未来が変わる……?『orange』は昨今の少女マンガでは珍しい、SF要素が入ったラブストーリーだ。「『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズ(タイムトラベル映画の代名詞と言える、過去や未来へ車の形をしたタイムマシンで行き来する伝説の三部作)が大好きなんです。『1』から始まったドクとマーティの友情が、どんどん深まっていきますよね。でも『2』の終わりで、ドクがタイムマシンで過去へ行ってしまい、マーティと離ればなれになってしまう。そうしたら、〝何年の何日に、この場所にマーティという男の子が現れる〞というドクからの言付けを受けた配達人が、マーティに手紙を届けにくるんですよ。そこから『3』のお話に繋がっていくんですね。その展開が、初めて観た時あまりに衝撃的で。『orange』とは舞台も時代も全くちがう話ですが、この〝過去から届く手紙〞というエピソードは、心にすごく強く刻まれています」

 それまでの高野苺の作品を知る読者なら、驚いてしまったのではないか。例えば、『orange』の前に連載していた『夢みる太陽』では、複数の王子様候補の間で揺れ動くヒロインの姿を、ときめき全開&コミカルに描き出していた。

「私の感覚としては、『夢みる太陽』がいつもと違ったんです。ちゃんとした少女マンガを描いてみよう、と初めて意識した作品だったんですよ。ヒロインと男の子たちのキャラもみんな濃くして、登場人物たちのやり取りだけで話が
進んでいく感じにしました。『orange』は、キャラを薄めに作っています。ストーリーをしっかり描きたい、と思ったからです。……萩田は口数が少なくて出番も少ないぶん、ちょっとキャラを濃くしてるんですけどね(笑)」

未来を知っていてもうまくいくとは限らない

 物語は、10年前の「今」と10年後の「未来」、2つの時間軸が交錯しながら進んでいく。10年後の仲間たちの輪の中に、翔だけがいない理由。それは│高校時代に亡くなっていたからだ。未来の菜穂は、翔の死を止められなかったことをずっと後悔していた。

 次に何が起きるか分かっているし、未来の自分からアドバイスももらえている。そう書くとすべてがうまくいきそうに思えるが、一筋縄ではいかない。例えば、翔がクラスにやってきた、転校初日。菜穂と仲間たちは、すぐに彼のことを受け入れる。放課後に松本市内を案内しようとするが……〈この日だけは翔を誘わないでほしい。絶対に〉。そんな手紙の指示に戸惑ってしまった菜穂は、それを行動に移すことができなかった。

「菜穂の性格は、私と似ているんです。その場で勇気を出せずに、あとでいろいろ後悔してしまう。そういう子なんだから、未来から手紙が来て、〝これをしてね〞と言われても、すぐにはできないよなと思ったんですよ。その時できなかったことを、同じ人間が、簡単にできるわけがない。未来の手紙どおりにすいすい障害をクリアしていく話も面白いとは思うけど、菜穂の性格に寄り添って描いていきたいと思ったんです」

 翔も、自分の本心は決して見せない。どんなにつらい時でも、友達の前では笑顔で振る舞う、優しくて不器用な男の子だ。翔と菜穂はある意味、似た者同士。周りから見れば好き同士なのは明らかなのに、言葉をのみ込んだまま、互いを見つめ合うことしかできない。そんなふたりの姿が、きゅんきゅんと読者の胸を刺す。

「翔と菜穂の恋愛は中学生っぽい感じにしたかったんです。手を繋ぐにもドキドキする。手を繋いでくれなくてスネちゃう(笑)。その距離感で描きたいなって」

 菜穂と翔を含む、男女6人のクラスメイトの関係性にもときめかされる。

「6人の関係は、私にとっても憧れですね。この人たちと友達になりたい、〝仲間に入りたい〞と思ってもらえるような、楽しそうな雰囲気を心がけて描きました」

 どの場面でも、菜穂と翔の関係を繋ぐ大事な役割を果たしているのが、須和だ。菜穂のことが好きなのに、自分は身を引いて翔との恋を応援する……。実は彼こそがこの物語のヒーローではないか?

「男性の読者の方は、そうおっしゃる方が多いです(笑)。〝須和は自分だ〞って(笑)。もしもあの頃の須和が、翔の悩みを知ってしまったら。恋よりも友情を取るんじゃないかと思ったんです」

 やがて菜穂は、手紙のとおりにうまく立ち回れない自分の弱さを知って、心がパンクしそうになってしまう。このままでは翔のことを救えない……。そこで手を差し伸べてくれたのは、仲間だった。物語が大きく動く2巻のラストシ
ーンは、鳥肌もの。6人の関係性に感情移入していった先の4巻では、とびきりの名シーンが現れる。

「翔が初めてみんなの前で、心から笑うというシーンを描きたかったんです。でも、〝どうやったら翔が笑ってくれるかな?〞と。最初は体育祭に6人でリレーに出て、アンカーの翔が1位を取るっていう展開だけを考えていたんです。でも、それじゃあ普通だなぁと……。私、アイデアを思いつくのはいつもマッサージに行った時なんですよ(笑)。足を揉まれている時にぱっと、〝伝言にしよう!〞と思ったんですよね。リレーのバトンを繋ぎながら、みんなでひとことずつ言葉を次の人に伝えていく、全部合わせるとひとつの文章になる。これなら、翔が心から笑ってくれると思ったんです」

続きはこちら>>【後悔はしたくない そう思うから全力でやる】
(11月6日17:30公開!)

取材・文=吉田大助 写真=下林彩子