冒険小説・ハードボイルド好きの好奇心を満たす、骨太の文学全集『冒険の森へ』

文芸・カルチャー

2015/11/6

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『法の代行者 (冒険の森へ 傑作小説大全12)』(逢坂剛、大沢在昌:著、編集)/集英社)

 集英社創業90周年企画の「冒険の森へ 傑作小説大全」。冒険小説・ハードボイルドを中心に幅広い国内小説を集めた話題の文学全集である。

 11月5日発売の第12巻のタイトルは『法の代行者』だ。全集の編集委員をつとめる大沢在昌、逢坂 剛の両氏に加え、横山秀夫といった作家による傑作警察小説が中心にセレクトされている。

 目玉はやはり大沢、逢坂の人気警察小説シリーズの長編二作だろう。

 まずは大沢在昌『新宿鮫II毒猿』。日本の警察小説史上に輝く刑事ヒーロー“新宿鮫”こと鮫島警部が活躍する第二作であり、シリーズの人気を決定付けた作品だ。

 鮫島警部は国家公務員上級試験に合格したキャリア組でありながら、とある事情から新宿署防犯課に所属する一匹狼の刑事。音もなく近付き、犯罪者に食いつくことから“新宿鮫”と呼ばれ、恐れられていた。その鮫島が第二作で対峙するのは、台湾から潜入したプロの殺し屋「毒猿」だ。驚くべき戦闘能力を持つ「毒猿」を止めるため、鮫島は新宿を駆け巡る。

 刑事と殺し屋の追いかけっこを軸にした本作は、シリーズの中でも格別の疾走感を味わえる物語だ。加えて本作のもう一人の主役というべき殺し屋「毒猿」が激しいアクションを繰り広げるため、冒険活劇としての面白さもずば抜けて高い。“新宿鮫”にまだ触れたことのない読者は、まずは本作からシリーズに入ってみるのも手だろう。

 そして逢坂 剛『百舌の叫ぶ夜』。西島秀俊主演でドラマ化・映画化され大ヒットを記録した〈百舌〉シリーズの第一作である。

 新宿で爆弾事件が発生し、通りがかりの倉木珠枝という女性が犠牲になる。珠枝の夫は警視庁公安部特務一課の刑事、倉木尚武警部だった。妻を巻き添えにした事件の首謀者はどこにいるのか。捜査一課の大杉良太、公安部第三課の明星美希巡査部長を巻き込みながら、倉木は個人的な捜査を始める。

 狂気的な一面も覗かせながら執念の捜査を行う倉木をはじめ、クセのある人物達が続々登場しては複雑な関係を織り成し、物語を盛り上げる。警察捜査小説だけでなく、バイオレンスや謀略スリラーといったあらゆるジャンルを内包し、終盤にはいつしか大きなスケールを持った小説へと変貌していることに読者は気付くだろう。物語に仕掛けられた「あるサプライズ」には眩暈がするような驚愕を覚えるはず。

 両作とも国内警察小説を代表する優れたシリーズだ。警察小説ファンはもとより、そうでない方も各々の小説に登場する刑事の魅力をぜひ堪能してもらいたい。

 本書はこの二長編のほかに横山秀夫の〈D県警〉シリーズの一編「黒い線」、宮部みゆき「八月の雪」の短編ニ編に、結城昌治「おまわりなんか知るもんかい」など掌編五編を収録している。

文=若林 踏

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