高野苺「後悔はありません」『orange』で書きたかった2つのこととは?

マンガ

公開日:2015/11/6

青春きらめくSFラブストーリー、堂々完結!
『orange』高野苺インタビュー②

後悔はしたくない そう思うから全力でやる

 実は『orange』の構想自体は、かなり前からあった。

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「『夢みる太陽』(第11話は『別冊マーガレット』2008年1月号掲載)を描く時に、『orange』の話も考えていて、どっちを先にやろうか悩んだんです。でも『orange』の話は、当時の自分にはまだ描けないものかもしれない、あたためておこうと思って」

亡くしてしまった愛犬への後悔が、
作品に繋がっている

翔の心に影を落とし続ける“母を死なせてしまった”という後悔。「翔のような人がいたら助けてあげてほしい」(高野さん)。

『夢みる太陽』を描きながら、常に頭のどこかで『orange』のことを考えていたそうだ。

「10年後の未来から菜穂に手紙が届いて、そこに書いてある指示を一個クリアする。その後に10年後の菜穂が出てきて、翔じゃなくて須和が隣にいる、赤ちゃんも抱いている……。第1話の構成は早い段階で全部、決めていました。あ
と、私は話を考える時に絶対、第1話と一緒に最終話のことも必ず考えるんです。ラストの終わり方もなんとなく、こうしたいなというイメージは先に決めました」

 その後、『夢みる太陽』は読者から人気を集め、連載が長期化。『orange』を描き出すタイミングは、2012年春になった。

 もしも4年と3カ月前に、『夢みる太陽』よりも先に『orange』を描いていたら、ここまでの完成度は達成できていなかったのかもしれない。経験を積みマンガ家の底力を高めたことも大きいが、もうひとつ。人生を揺るがす、大きな出来事を経験していた。

「『夢みる太陽』を描いている最中に、飼っていた犬が死んでしまったんです。まだ8歳だったので、まさか死んでしまうとは思っていなくて。もっと大切にしてあげられたんじゃないかと、今でも後悔しています。やり直したいけど、やり直せない。そういう気持ちを経験した後に描いたのが、『orange』なんです」

全部出し切りました。
後悔はありません。

今時珍しい、絶滅危惧種とすら言える、ひたすらに真っ直ぐで純粋な二人の恋心も、『orange』の大きな読みどころのひとつ。

 ひとつひとつのシーンを、ひとコマひとコマを、ひとつひとつの表情や台詞を、徹底的に考え抜いたうえで試行錯誤しながら描く――後悔をしないように。マンガ家のその姿勢は、『orange』のメッセージともシンクロしている。

「後悔は絶対したくないという気持ちで、とにかく全力でやる。それでも失敗してしまったら、〝全力でやったんだからしょうがない〞と思える。いい形で次へ進める気がするんです」

「その後」は自由に想像してもらえたら

 今夏、『月刊アクション』10月号に最終話が掲載された。11月12日には、コミックス最終5巻が刊行される。オレンジ色の空が広がる表紙イラストが、最終話の感動を高めている。これまでの道のりを振り返って、高野は言う。

「『orange』で描きたかったのは、〝後悔しないように生きる〞ということと、〝翔のような人がいたら助けてあげてほしい〞ということなんです。大切な人を失わないように、声をかけたり、手を差し伸べたりしてあげてほしい。そんなふうに感じてもらえたらなと、願いながら描き続けてきました」

 第1話を描き出した時に構想していたラストとは、少し変えた部分もあるそうだ。

「手紙をもらった菜穂たちの10年後がどうなっているか、一番初めは描くつもりでいたんです。でも、描きながら自分で、それは描きたくないなと思って。もっといろんな捉え方ができるように描いています。10年後がどうなっているかは、読者の皆さんに自由に想像してもらいたいと思ったんです」

 未来からの手紙を受け取った菜穂と同じ16歳、高校2年の時に、高野苺はマンガ家デビューを遂げた。「好き」を原動力にマンガを描き続けてきたが、自分のマンガを「好き」だと言ってくれる読者が増えていくうちに、プレッシャーと不安が募っていった。立ち止まってしまう瞬間もあった。だがそれでも――、描き続けることを選んだ。

「マンガを描くことは、すごく難しくて大変です。でも、私のマンガを読んだ人が、楽しんでくれたり、何かを受け取ってくれるなら私は、マンガ家になって良かったと思えるし、マンガを描き続けることができるんです。今の自分にできることは全部、『orange』で出し切りました。後悔はありません」

取材・文=吉田大助 写真=下林彩子

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