弱くても勝てます! 駆け引き上手な勝負脳を磨く「ゲーム理論トレーニング」

ビジネス

更新日:2016/1/13

『戦略的思考を磨くゲーム理論トレーニング』(逢沢 明/かんき出版)
『戦略的思考を磨くゲーム理論トレーニング』(逢沢 明/かんき出版)

 「ゲーム理論」をご存じでしょうか。テレビゲームの話ではなく、経済学の学問です。身近な人間関係やスポーツ、ビジネス、株式投資、あるいはさらにスケールの大きい政治選挙や国際関係などをすべて「ゲーム」としてとらえ、頭脳プレイや駆け引きを研究するのが「ゲーム理論」です。

 『戦略的思考を磨くゲーム理論トレーニング』(逢沢 明/かんき出版)は、そんな「ゲーム理論」を通じて日常生活の場で役に立つ戦略的思考を身につけるためのトレーニング本。実際の「ゲーム理論」は複雑な数式を用いて結論を導き出しますが、本書では実践での活用を想定した論理的パズル問題を解いていくことで「ゲーム理論」の思考を鍛え、政治経済の基礎を学べるようになっている。いくつか設問を紹介するので、頭の体操がてら考えてみてください。

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ベンチャー企業が大企業に勝てる理由

大企業のA社は5年前に100億円かけてコンピューター設備投資を行いました。新興企業のB社は10億円の設備投資をして同じ事業に参入しようとしています。A社とB社の設備の性能は同等です。勝敗はどうなるでしょうか?

 テクノロジーの技術革新は日進月歩です。これまでIT産業においては、「1年半でコンピューターの性能比が2倍になる」という「ムーアの法則」が成り立ってきました。5年でおよそ10倍です。A社の設備と同等の性能でもコストが10分の1であれば、B社のほうが競争力があります。よってB社が圧倒的に勝ちます。これは現実でもしばしば起こる事例です。企業戦略次第では弱者が強者に勝つことができる。これが「ゲーム理論」のキーワードです。

選ぶのは利益か損失か

あなたは野球のバッターです。ピッチャーは直球と変化球を使い分けます。次の球をあなたが「直球と予想」した場合、直球であれば打てる確率は80%、変化球であれば0%です。あなたが「変化球と予想」した場合、直球であれば10%、変化球であれば30%で打ち返せます。
 あなたは直球と予想しますか? 変化球と予想しますか?

 ピッチャーの立場で考えると、直球よりも変化球のほうが打たれる確率は小さいので、自分の利益を最大にするには変化球を選ぶのが最適です。したがって、バッターも最も損失の少ない変化球と予想すべきです。「マックス(最大)の損失をミニ(最小)にする」というこの考え方は「ゲーム理論」では「ミニマックス戦略」と呼ばれ、とくに株式投資において目先の利益よりも損失のリスクを避ける分散投資の基本となっています。

なぜ、損失に目を向けるのか

1000円の株価が750円に下がりました。さらに翌日は500円になりました。2回の値下げのうち、どちらのほうが深刻でしょうか?

 下げ幅はどちらも250円です。しかし、何%の下げかという割合で考えると、最初は1000円の25%、2回目は750円の約33%です。したがって、2回目の下げのほうが深刻です。損失を取り戻すのは大変です。1000円の株価が700円に下がったら30%の損失ですが、700円を1000円まで取り戻すには約43%の値上がりが必要です。上がり幅ほうがずっと大きくて困難です。だから損失をできるだけ低く抑える「ミニマックス戦略」が重要視されるのです。

デフレを招く値下げ競争

ガソリンスタンドのA店とB店は、どちらもガソリンを1リットル100円で売っています。両店とも100円で売ると年間利益は2000万円ずつです。一方が90円に値下げするとお客を奪えるので値下げ側は3000万円、相手は1000万円の赤字です。両店とも90円で売ると年間利益は1000万円ずつです。
 さて、あなたがA店としたら値下げしますか?

 B店が現状維持のとき、A店は値下げしたほうが得です。B店が値下げのとき、やはりA店は値下げしたほうが得です。値下げするのが正解のように思えます。ところがB店も同じように考えて値下げすると、両店とも現状の利益よりも減ってしまいます。これが繰り返されるのがデフレの現象です。値下げをするにしても慎重に考えるべきでしょう。このようにお互いが利益だけを追求した結果、どちらも損をしてしまう状態を「囚人のジレンマ」といいます。

多数決で小が大を制する

100人の議員で国会を構成しています。議員はA党、B党、C党の3つの政党に属しています。このたび選挙が行われ、各党の議員数は以下のようになりました。
 選挙前 A党:52人 B党:28人 C党:20人
 選挙後 A党:48人 B党:40人 C党:12人
 選挙の前後でC党の影響力は落ちたのでしょうか?

 選挙前、A党は単独多数でした。しかし、選挙後に過半数割れを起こしました。A党が政策を決めようとすれば、C党の賛成が必要です。またB党もA党に対抗するにはC党の協力が必要です。したがって、C党は少数政党ながら決定権を有することになりました。どちらかが連立政権を申し込んできた場合、C党は有利な条件を相手にのませることができます。国会内でC党の存在感を見せつければ次回の選挙で有利になるでしょう。

 このように「ゲーム理論」を駆使すれば、一見、不利な状況に思えても、相手の手を先読みしたり、敵とも協力関係を築いたり、考え方や戦い方次第で自分に有利な状況に持ち込むことができます。最低でも大損を避けることができれば、起死回生のチャンスも生まれるでしょう。これから株式投資や起業を考えている人は、その戦略の参考にしてみてはいかがでしょうか。

文=愛咲優詩