ショートショートの神、星新一の才能は遺伝だった!?父親星一の『三十年後』

文芸・カルチャー

2015/11/11

『三十年後』(星一 星新一 星マリナ/新潮社)
『三十年後』(星一 星新一 星マリナ/新潮社)

 1997年に亡くなった後も、若い世代にまで引き続き根強いファンを持つSF作家巨匠、星 新一氏。ショートショートといえば氏の名前があがるほど、今なお幅広く認知され支持を集めている。氏の作風の魅力は、短くまとめられた1話の中にも奇想天外な発想力と壮大なスケール、さらに思いもよらないオチが詰まっていることにあるが、そのずば抜けた発想力の才能は星製薬の創業者である父・星 一氏から受け継がれたものであるということがよく分かるのが、2015年に復刊された『三十年後』(星一 星新一 星マリナ/新潮社)だ。

 はじめに、星 一氏という人物の概要について簡単に触れておくと、氏は国産モルヒネの生産により当時東洋で一番の製薬会社として名を馳せた星製薬を設立した社長である。その後、議員当選して政治の世界にも足を踏み入れるなど、これ以上ないほど輝かしい経歴と名声を手にしつつも、氏は創作意欲を持ち続け、SF小説『三十年後』を発表する。同著は平成の時代に入り、息子の星 新一氏が編集・要約、さらに孫の星 マリナ氏が監修という星3代のコラボレーションにより復刊された。

 ストーリーは、嶋浦太郎という政治家が現役を退き、無人島生活を30年送った後に東京に戻ってくるところから始まる。しかし、当時の嶋の知人たちは薬の力で若い時代のまま時が止まっていた。嶋浦太郎も薬の力で若返りを図り、気力に満ち溢れた新たな人生と無垢な恋を手に入れる……というように、まるで一氏が願う星製薬の未来図を描いたかのような展開が全編で繰り広げられる。息子の新一氏も「この作品の特徴は、全編が薬品へのPRになっている点である。PR小説の創始者といえるかもしれない」と後書きで語っているほどである。また、大正7年の段階で、30年後には人の若さを薬によってコントロールできる未来が来るかもしれないと想像していた点についても新一氏は驚きを隠していない。実の父のことを手放しでほめるのには抵抗を感じつつも、社会の枠組みにとらわれない大胆な考え方は、新一氏さえもうならせたのである。

 小説の軸となるアイディアとしては大正時代に書かれたものとは思えないほど革新的なものである。とはいえ、恐らくオリジナル版のままでは、長々と綴られる文章の間延び感や冗長感は否めなかったであろう。しかし、そこにショートショートの巨匠・星 新一氏の要約という加工が施されることにより、ストーリーにさらなるまとまりと切れ味が生まれたのだと言える。つまり、『三十年後』の読後感として最も強く感じられるのは星 新一氏という作家の「ショートショートの才能」なのである。SFに通じる壮大かつ他に類を見ない発想力は父から受け継いだ才能であるが、さらにそこにオリジナルの「要約し必要最低限のエッセンスのみを切り出す能力」がミックスされ、氏の切れ味抜群なショートショートという作風が生み出されたと考えられよう。

 波瀾万丈かつ濃密な人生を生き抜き、星 新一氏という文学界における唯一無二の存在を生み出した星 一氏という人物についてさらに知りたい場合には『明治・父・アメリカ』(星新一/新潮文庫)をお薦めしたい。息子の新一氏から見た父親像がクリアに浮かび上がる名著である。

文=やまもとなつき