安彦良和が語ったガンダムの本当のテーマにファン納得。アムロを再評価する声も

マンガ

公開日:2015/11/10


 1979年にテレビ放送された「機動戦士ガンダム」でキャラクターデザイン&作画監督を担当し、“ガンダム生みの親”のひとりとしていまだ支持され続ける安彦良和。2015年10月31日(土)より、同氏が約10年間にわたり連載したマンガ『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』のアニメ化作品「機動戦士ガンダム THE ORIGIN II 哀しみのアルテイシア」が2週間限定でイベント上映されることを受け、初日舞台挨拶に登壇した。同作で総監督も務める安彦が発言したガンダムのテーマは、ファンの胸に深く突き刺さったようだ。

 大学中退後にアニメーターとして、手塚治虫関連のアニメーション専門プロダクション「虫プロ」に参画した安彦。同プロダクション倒産後はフリーへと転身し、創映社(日本サンライズ)を拠点にしつつ、「宇宙戦艦ヤマト」「機動戦士ガンダム」などの人気アニメに携わった。安彦の代名詞とも言える「機動戦士ガンダム」誕生のヒントは、SF作品を中心とした企画制作スタジオ「スタジオぬえ」にあった、アメリカのSF作家であるロバート・A・ハインラインの著書『宇宙の戦士』のイラストだったという。同スタジオの代表だったSF作家・高千穂遙が「それを読め」と勧めたことを機に、富野由悠季プランと相まって「機動戦士ガンダム」の企画が進んでいったという。

 その後、ロボットアニメとして不動の地位を築き上げた「機動戦士ガンダム」については、もはや説明不要。ただ、同作のコミカライズについて、安彦は当初乗り気ではなかったそうだ。というのも、自由に漫画家人生を謳歌していた矢先のことで、一旦描き始めると4~5年は時間が取られてしまうし、その間、他の執筆が滞ってしまうため。しかし、何度も誘いを受けるうちに、「体調を崩し、テレビ版の製作現場から去ったことに、けりをつけたい」「テレビ版のおかしな点をわかりやすく整理し、現在でも通用する物語を再構築したい」などの想いが芽生え、執筆に至ったとされている。

advertisement

 2001年から連載が始まった『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』。設定の見直しや、外伝的な物語の追加が施された同作は、「アムロ少年の成長記録という印象の強いアニメ版からこぼれた物語が、読み進めるうちにふんだんに登場」「主要キャラを中心に、人間の立ち位置から、しっかりと描かれる」「30年越しの謎が晴れていき爽快」など、読者から圧倒的な人気を博した。なお、単行本は23巻で終了となるが、2015年2月には、新たに描き下ろされた3作品&ガイドブック収録の3作品を纏めた特別編にあたる24巻が刊行され、ファンを喜ばせた。

 そんな同作を、2015年2月に安彦自らが総監督を務め、アニメ「機動戦士ガンダム THE ORIGIN I 青い瞳のキャスバル」としてイベント上映。そして、第2話となる「機動戦士ガンダム THE ORIGIN II 哀しみのアルテイシア」が、10月31日(土)より2週間限定でイベント上映されることとなった。

 初日の舞台挨拶に登壇した安彦は、「今年は戦後70年」と前置きした上で、ガンダムのテーマについて「(ガンダムは)戦争を賛美する、逆に悲惨さを描いているなどと言われるが、どちらも違う。『人間が、なぜ戦争をしてしまうか?』がテーマ」と述べた。また「それに気づかせてくれたのは、他ならぬアムロ」とも。

 同会場でもファンから喝采が送られたこの発言は、足を運べなかったファンの胸にも響いたようで、「いいこと言うね、監督」「人は同じ過ちをくり返す…全くなんでだろう」「理解することって難しいけど、分かち合う努力って必要だよね」「難しいテーマだけど、大事なこと」「少年が命をかけて戦うから余計に戦争の悲惨さを考えさせられる」などの声が上がった。

 また、「親父にも殴られたこと無い、お坊ちゃんと思ってたけど、違ったわ。アムロ、君ってやつは…!」「あの頃は俺も坊やだったからさ…、今になってちゃんと分かった気がする」と、アニメ放送当時は分からなかったアムロ・レイの本当の姿を、大人となった今だからこそ称賛する声も。

 アニメ化に際し、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の公式サイトに「映像化にあたり、有能なスタッフの皆さんが物語を検証したり、たくさんのアイデアを出して設定を強化したりしてくれています。それでも、僕の描いた漫画原作の基軸は変わっていません。あらためて僕は、僕の描いた『ガンダム』の「過去編」に自信を深めています」とコメントを寄せている安彦。来春には第3話も公開予定となっており、作画も佳境に入っているとのことである。テーマを踏まえた上で、「機動戦士ガンダム THE ORIGIN II 哀しみのアルテイシア」を劇場で鑑賞し、第3話に臨みたい。


■『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』24巻
著:安彦良和
原案:矢立肇、富野由悠季
価格:626円(税込)
発売日:2015年2月26日(木)
出版社:KADOKAWA