なぜ『ちはやふる』はサラリーマンの心をわしづかみにするのか?

マンガ・アニメ

2015/11/12


『ちはやふる』(末次由紀/講談社)

 テレビアニメ化・広瀬すず主演の実写映画化と、今まさに飛ぶ鳥を落とす勢いのマンガ『ちはやふる』(末次由紀/講談社)。この一大ブームは、幅広い層の読者をとり込んでいることが勝因であるが、とりわけ通常の少女マンガでは想定外の「中間管理職サラリーマン層」読者が数多く存在していることが寄与していることをご存じだろうか? 少女マンガでありながら、このマンガには恋愛要素があまり前面には出てこない。むしろ「適材適所」や「チームの中で個人がどのような働きをするか?」という、仕事にも通じる要素がストーリー展開の中心となって繰り返し出てくる。つまり世のサラリーマンたちにとって「少女マンガ版プロフェッショナル」とも言えるチームマネジメントのポイントが詰まった内容なのである。

 主人公の千早は超絶美少女ながら恋愛にはうとく、かるた一直線の生活を送る高校生。天性の聴覚の良さを武器に、腕を磨いている。千早と同じ瑞沢高校かるた部の部長を務める太一は、ルックスが良く成績も常に学年トップ、スポーツ万能と文武両道のモテ男で幼馴染の千早に密かに想いを寄せている。千早とは反対にかるたの鍛錬を積んできた努力の人だからこそ、部長としてチームの皆を引っ張っていくマネジメント力には非常に長けている。しかし周りがよく見えすぎてしまうからこそ、自身のA級昇格には伸び悩む。そんな折に恩師からかけられた“団体戦は個人戦、個人戦は団体戦”という一言が太一のかるたを変えていく。自分の勝ちに集中することが時にチームへの何よりの貢献になることを悟り、勝つことへの執念を燃やし始める。実際に個々のかるたスキルでは敵わない強豪校相手にも瑞沢高校は互角の戦いを繰り広げて勝ちを重ねていくのである。

 ビジネスの場面でも「個々の能力を最大限に引き出すことで最高のチームパフォーマンスを生む」というマネジメント手法が有効であることは広く知られている。かるたの団体戦での戦い方が仕事のチームワークに相通じているのだと言えよう。

 また、このマンガにはキーパーソンとなるブレイン、駒野勉(通称机くん)が登場する。かるた歴は高校からと浅く、スキルも部の他メンバーと比べて輝かしいものはない。しかし、緻密な計算力とリサーチ能力をもち、彼のデータブックをもとに対戦表を組んだり、戦法を変えたりすることによって勝ちがもたらされるなど、チーム貢献度は非常に高い。部の中で選手兼マネージャーといった存在なのである。皆が千早のような天才肌でもチームは決してうまく機能しない。彼女をしっかり支える机くんのデータあってこそ、千早が一層輝くのである。

 職場のチームにおいても、必ずしも皆が勝てるメンバーばかりとは限らない。そこでマネージャーに求められる手腕とは、適材を適所に配置するというマネジメント能力なのである。チームに机くんのようなメンバーがいたら、勝ちをとりに行く要員としてではなく、誰かを勝たせるためのサポートに徹してもらう、という判断も時には必要であろう。

 未だ『ちはやふる』を読んだことがないというサラリーマンの方にはぜひ、ビジネス書を購入する感覚で手にとってみてほしい。その際には、個々のキャラクターの特性を理解したうえで「このタイミングで誰をどのように配置するか?」「この対戦相手にはどのような戦法で挑むか?」など、自分だったらどうするかを考えつつページをめくるのが正しい楽しみ方だとお勧めする。

文=やまもとなつき