映画『俺物語!!』の原作者・河原和音が、ヒット作を連発し続けるワケとは!?

マンガ

公開日:2015/11/12


『俺物語!!』(アルコ:著、河原和音:原著/集英社)

 俳優・鈴木亮平のすごすぎる肉体改造が大きな話題を呼んでいる映画『俺物語!!』。主人公の剛田猛男を演じるため、体重を30キロ増やしたという。そこまでやってもらうと、原作の愛読者としては嬉しいことこの上ない。猛男を演じられるのは鈴木亮平しかいないって気がしてくる。

 ところでこの『俺物語!!』という漫画、作画と原作をそれぞれ別の漫画家が担当しているコンビ作というのをご存じだろうか。作画を手掛けるのが『ヤスコとケンジ』(集英社)のアルコ先生、原作を手掛けるのが『高校デビュー』(集英社)の河原和音先生。今回は、原作担当の河原和音先生にスポットを当てたいと思う。

 1991年に別冊マーガレットでデビューして以来、『別マ』一筋で活動を続けているベテラン作家。アラサー読者なら誰もが一度は耳にしたことがあるだろう『先生!』(1996~2003年)という作品で、別マの看板作家となった。

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 作品テーマは、基本的に学園青春ラブストーリー。突飛な設定はなく、いわゆる少女漫画の超王道なのだが、描く作品すべてをヒットさせてきた強者である。ヒット作を連発できる漫画家がそもそもごく少数なのに、20年以上にわたって第一線で活躍してるんだから、すごい。

 なぜ河原作品は世代を超えて愛されるのか? 少女たちを惹きつけてやまない河原作品の魅力とは一体何なのか。そのヒミツを探ろうと作品を読み返すと、主人公のある共通点に気づく。とにかくみんな“素直すぎる”のだ。どのキャラクターも、素直で裏表がない。これに加えて、単純で嘘がつけない。これが河原作品の主人公の共通点である。作品ごとに振り返るとそれがよくわかる。

 冒頭でも触れた『俺物語!!』の主人公・剛田猛男は、ゴツい見た目とは裏腹に、その性格は純情で真っ直ぐ。誰にでも優しく、とりわけ彼女の大和には最大限の愛情を注いでいる。そんな猛男に男友達は全幅の信頼を置いているし、実は密かに想いを寄せる女子もいる。読者も「こんないいヤツ、応援せずにはいられない」という気持ちになってしまうのだ。

 10月にめでたく最終回を迎えたばかりの『青空エール』の主人公・小野つばさも、これまた素直な女の子。猛男と違って大胆な行動力はないが、芯の強さは人一倍。「トランペットを吹きたい」という夢を叶えるために、初心者でありながら、名門吹奏楽部に入部し、持ち前の根性で苦難を乗り越えていく。河原作品の中でも、とりわけ地味な性格だけど、現実にいたら一番モテそうなタイプ。

 つばさとは反対に、アグレッシブな素直さを持つのが、『高校デビュー』の主人公・長嶋晴菜。序盤は、高校デビューするために学校一モテる小宮山ヨウから男ウケを学ぶというストーリーだが、4巻目でめでたく晴菜とヨウがカップルになり高校デビュー大成功。なので、事実上『高校デビュー』という話はそこで終わっている。にもかかわらず 、この2人の恋愛模様だけでその後15巻まで続いた。それも晴菜というキャラクターの力によるところが大きい。カップルになったらなったで、今度は「いい彼女」になれるよう邁進していくのだ。素直で単純な晴菜は、まさに“女子に好かれる子”。

 そして、河原先生の出世作ともなった『先生!』では、河原ヒロイン像の原点ともいえる島田 響が登場する。奥手な響が初めて恋をしたのは、学校で社会科を教える伊藤先生。先生に振り向いてもらうために響がしたのは、とにかく直球で想いをぶつけ続けること。相手が先生だというハードルも、響の真っ直ぐな想いの前には関係ないのだ。

 大人になって少女漫画を読むと、「こんな都合よくいかねーよ」とか、「こんなイケメンはいねーよ」とか、荒んだ心が浮き彫りになる。素直すぎる性格はとかく損する。しかし、河原作品を読むと、「アレ、そんなことないじゃん? 素直っていいじゃん?」と思えてくるから不思議だ。最近なんかやさぐれてるな……と思うアラサー女子は、河原作品を手に取ってみよう。きっと、素直な気持ちでもう一度頑張ってみようという気持ちになれるから。

文=中村未来(清談社)