韓国に10年住んだ新聞記者が見た“反日の真相”とは?

海外

更新日:2017/4/10


『韓国「反日」の真相』(澤田克己/文春新書)

 ネットの中には「反日」の二文字が溢れている。まるでマジックワードのように、敵と見なした相手に、憎悪の対象に、そしてとにかく気に入らない者を「反日認定」することが、ネットのお約束になりつつある。最近ではいわゆるネトウヨにとどまらず、あの朝日新聞までもが見出しに「反日」と書くまでになってしまった。

 「反日」が使われ、その憎悪の先に広がるのは中国や韓国だ。領土や歴史認識でぶつかり、日本の社会保障や治安を乱したり奪ったりするものとして、両国に矛先が向けられている。連日連夜、よくもまあと悪い意味で感心してしまうほどの関心ぶりだ。

 しかし「反日」って本当は、何を指すものなのだろう? 政治や社会の在り方に声をあげただけで「反日」だとバッシングされてしまう現状があるからこそ、その意味について知りたくなった。そこで興味とほんの少しの反発から、『韓国「反日」の真相』(澤田克己/文春新書)を手に取った。著者の澤田克己氏は約10年にわたって毎日新聞ソウル特派員生活を送り、現在は同紙の論説委員だ。そして同書は今年、アジア・太平洋賞の第27回特別賞を受賞している。

advertisement

 韓国を肌で感じてきた澤田氏は、まえがきでまず、2012年8月に当時の李明博大統領が竹島に上陸したことと、その数日後に「国際社会での日本の影響力も昔ほどではない」と言い放ったことに触れている。

バブル崩壊後の日本が国際社会で存在感を低下させたことは否定しないが(中略)
それまで持っていたコンプレックスの裏返しとして、「日本がもうダメだ」「日本から学ぶものはない」といった、極端な主張が韓国社会を支配するようになったのである。

 その結果、

「反日」に関していうならば、ブレーキが完全に壊れてしまった状態だ。誰かがアクセルを踏めば、すぐに暴走してしまう社会構造ができているのである。

 としている。

しかし

「実際には、町中で反日的な空気を感じることなどないと言い切れるほどだ」

とも書いているように、日本語を話しているからといって韓国内で身の危険を感じることもなければ、『嫌われる勇気』(岸見一郎・古賀史健/ダイヤモンド社)をはじめ、日本の書籍は大人気だ。そして一方で、

「反日的な雰囲気を感じることができないことは、反日的な動きが存在しないことを意味するものではない」

ともしている。

……ますます何が反日なのかがわからなくなってきた。ので澤田氏に直接、「反日って何?」と聞いてみることにした。すると

「日本社会で『反日』と受け取られるような行動でも、韓国側に『反日』という意識は薄いということの背景に、『日本を軽く見る』意識があるというのが私の見立てです」

 との答えが返ってきた。うーん、つまり日本を軽く見ることが、反日に繋がるのだろうか? 

「具体的な事例でどこまで当てはまるかは難しいところですが、日本大使館前で日の丸を焼こうとしたり、日の丸や安倍首相の写真につばを吐きかけたりするというのは、明確な『敵意や反感』の表出といえるでしょう。こうした行動を『敵意がない』と強弁することは、難しいと思います」(澤田氏)

 確かに今年も8月15日には、ソウルの日本大使館前に日本を激しく非難するプラカードを掲げる一団が集まり、安倍晋三首相に見立てた人形に火を点けようとしていた。参加者も制止する警察も野次馬もマスコミも、皆が消火器の粉で真っ白になる安手のコント状態だった。

しかしたとえば日本国内でも排外デモが起きるからといって、それが日本人の総意ではないように、韓国内で起きている日本への抗議行動も、決して国民の総意ではない。(げんに大使館前に集まった人の数は、歩道に収まりきる程度だった)

そして日本も韓国も、東アジアの国の一つに過ぎない。協力するところはして、関わらないところは関わらないようにするのが、独立した国同士の付き合いではないのだろうか。実際、澤田氏も終章でこう書いている。

韓国にとって、今や日本は「外国の一つ」であるという現実を受けとめ、私たちもまた
「外国の一つである韓国」を冷静に見つめていく。いま日本に求められているのは、そうした姿勢なのだ。

 もはや日本は韓国の宗主国ではないし、韓国も日本の従属国ではない。だから韓国が日本をどう見るかは、日本が決めることではない。それに「軽く見られた」ことが反日に繋がると思ってしまうのは、日本側に宗主国時代の亡霊がさまよっている証左なのかもしれない。

 では韓国の目には今、何が映っているのか。それについては第五章の「中韓接近の真理」がヒントになる。古代朝鮮以来、切っても切れない隣国とは中国であり、いかに中国に引きずられてきたかについて、歴史を交えながら説明している。「反日」を多用した他の章よりも韓国の姿勢がわかりやすく描かれ、澤田氏ならではの視点が光っている。

もしかしたら中韓関係を知ることで、今の日本と韓国の間にあるものも見えてくるのではないか。澤田氏の「次」には、ぜひそれを期待したいと思う。1冊読み通しても最後までわからなかった韓国の「反日」の真相も、併せて見えてくるかもしれないから。
もちろんそんなものは、亡霊による幻に過ぎないかもしれないけれど。

文=久保樹りん