シリア問題やイスラム情勢など、近年の世界情勢をリアルに反映した本格スパイ小説―『亡者のゲーム』

文芸・カルチャー

2015/11/13


 2015年7月、ハーレクインがハーパーコリンズ・ジャパンに社名変更し、海外の本格的な作品を提供する新しい文庫レーベル「ハーパーBOOKS」を創刊。創刊を記念して3作が刊行されたが、その中で特に注目を集めているのが『亡者のゲーム』だ。

 『亡者のゲーム』は2006年に発売された『告解』以来、実に9年ぶりとなるダニエル・シルヴァ作品の邦訳であり、“ガブリエル・アロン”シリーズの第14作目に当たる作品。著者のダニエル・シルヴァは、UPI通信社でワシントン本社や中東特派員として活躍。さらにCNNでもエグゼクティブ・プロデューサーとして数多くの報道番組などをプロデュースするなど、国際派ジャーナリストとして名を馳せた人物だ。

 ジャーナリストとして彼が培った経験や知識を思う存分に活かし、代表作として書き続けているのが、この“ガブリエル・アロン”シリーズ。歴史的な絵画を鮮やかに蘇らせる超一流の絵画修復師であり、イスラエルのエージェントとして陰謀渦巻く諜報戦を戦う“ガブリエル・アロン”シリーズは、国際政治やテロリズム、経済、民族を報道し続けたダニエル・シルヴァだからこそ描ける、一級のエンターテインメント小説だ。『亡者のゲーム』執筆に際してダニエル・シルヴァはこんなコメントを残している。

「アラブ世界の権力者による搾取と違法な蓄財、そしてマネーという本作の重要なモチーフを取り上げようと思ったのは、“アラブの春”がきっかけです。この広域にわたる政治的動乱の要素として最も興味深いことのひとつに、アラブ世界の独裁者たちの強欲が露呈したことが挙げられます。ムバラク政権崩壊後、彼の財産は実質700億ドルと推定されました。リビアのムアンマル・アル・カダフィにも、少なくともそれくらいの富はあったと思われます。そのお金がアラブ世界の人々のための教育やサービスに使われていれば…、アラブの支配者たちが国民にもっと敬意を表していたら…。」ダニエル・シルヴァ

 ダニエル・シルヴァ本人の取材で得た情報や見識、経験がふんだんに織り込まれた『亡者のゲーム』は、中東情勢で世界が揺れる今だからこそ読みたい作品だ。作品に熱狂する読者の声をいくつか紹介するので、ぜひ手に取って読んでほしい。

「現在の中東の惨状が織り込まれており、小説の世界に引き込まれる作品でした」

「ヨーロッパにおいて次々と舞台が変わり、謎が謎を呼び、ついでに死体も増えていく。それでもこのラストの清々しさは分厚い文庫を持ち続けた腕の筋肉痛を忘れさせてくれます。おすすめの書籍です。美術修復師という副業がまたいいですよね。映画でもガブリエルの活躍を見てみたいものです。ヨーロッパの美しい街並みとストーリー、思い浮かべただけでもわくわくします」

「実在する美術品が出てきてビックリ! スパイものが好きな私は、初めはそっちがメインだったけど、途中から実在する美術品だったり、現地の食事だったりの描写に目が行きました。ストーリーもしっかりしているので、おすすめです」

「一度読んだだけでは、頭の中に収まりきらないほどの物語の濃さ。二度、三度読んでも、すべてを読み切れているかどうか不安になり、また読んでしまいます。ドキュメンタリーのようなリアリティに唾を飲む。平凡な毎日に刺激を与えてくれる一冊となりました」

「イタリアに何度も渡航しているので大変面白く読みました。すぐ、ダニエル・シルヴァの同じシリーズの既刊本を全部読んでしまいました」

■『亡者のゲーム
著:ダニエル・シルヴァ
翻訳:山本やよい
価格:963円(+税)
発売日:2015年7月22日(水)
出版社:ハーパーコリンズ・ジャパン

ミラノ北部にあるコモ湖の豪邸で元イギリス外交官の死体が見つかった。被害者は絵画の収集家として知られ、死の直前、何者かによって酷く拷問されていた。事件の裏に国際的な名画のブラックマーケットが存在することを疑ったイタリア国家警察高官は、ヴェネツィアで暮らす一人の男に極秘で捜査協力を要請する。男の名はガブリエル・アロン。世界屈指の美術修復師である彼のもうひとつの顔は、冷酷な暗殺者にしてイスラエルの伝説的諜報員だった。
旧友のため非公式に事件を追いはじめたガブリエルは、鍵を握るのが1969年にシチリア島の教会から忽然と姿を消した幻の名画“キリストの降誕”とそうした“黒い名画”を買い集める中東某国の独裁者だと知り、ゴッホの名画を使った奇想天外な作戦を仕掛ける。
やがて浮上してきた莫大な金の流れ―ガブリエルは独裁者の影がちらつくスイスのプライベートバンクに注目し、経理担当のシリア移民の女性に近づくが、いつしかヨーロッパ全土にまたがる金と欲にまみれた謀略のゲームに身を投じることとなり…。