意外にも挫折続きだった!ダース・ベイダーにこそ学べる人生訓とは?

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/17

 『スター・ウォーズ』で一番有名なキャラクターといえば、2メートルを超える長身で全身黒ずくめ、不気味なマスクをかぶってマントを翻し、奇妙な呼吸音をさせてフォースを操る、赤い光刃のライトセーバーが武器のダース・ベイダー(アナキン・スカイウォーカー)だ。テレビなどで怖い人が登場する際に流れるBGM『帝国のマーチ』とセットで覚えている人も多いだろう。

 悪の権化のようなダース・ベイダーだが、案外とその人生は失敗と挫折続き、そして予想外な出来事に振り回されたものだった。わかり合えなかった息子ルークとは、皇帝のフォース・ライトニングから救って最後に和解する(娘のレイアとは親子の名乗りを上げることすらできなかった)が、憧れのジェダイ・マスターにはなれず、ダークサイドに堕ち、権力は握ったがトップにはなれない、ナンバー2止まりの人生だった。

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 人生にもしもはないが、もしもアナキンを見出したクワイ=ガン・ジンがダース・モールに殺されなければ、アナキンはマスターになれたのかもしれない…と思ったのだが、クワイ=ガンはアナキンの母シミにこんなことを言っていた。「出会いは偶然ではない。すべて運命(さだめ)なのです」と。

 哀しい運命に翻弄され、己に負け、挫折続きだったダース・ベイダーの生き方に学ぶというのが『ぼくたちは、フォースの使えないダース・ベイダーである』だ。本書は「ダース・ベイダーを通じて生活を向上させる評議会」という集団が編者なのだが、冒頭のプロフィールにはこんな紹介がある。

 ダース・ベイダーを尊敬してやまない、謎の集団。アウター・リムのコリバンを中心に、2187BBYより活動を開始した、由緒正しい組織。黒ずくめのファッションを好み、飲み会のコールは“シュコー・シュコー”。男女比は6:4。趣味は、ダース・ベイダーそっくりの、チョコレートパンケーキを焼くこと。

 ちなみにアウター・リムとは宇宙の辺境のことで、コリバンはそこにある惑星であり、シスの霊廟が存在するというダークサイドの力に満ちた星だ。2187BBYとは銀河標準暦のことで、BBYは『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』で初代デス・スターを破壊した「ヤヴィンの戦い」以前の時代を意味する(西暦で言うと紀元前みたいなものだ)。つまり評議会の設立は『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』の時代よりもはるか昔ということになる。

 本書はダース・ベイダーの人生を振り返りながら、エポックとなった出来事を書き記し、そこへ自分たちの気持ちを重ね、やるせない日々をいかに充実した毎日にするかを追求している。あんなに志を高く持っていたはずなのに、いつの間にか黒いスーツに身を包み、機械的に毎日を過ごしていないかあいつらはみんな間違っていると独善的に物事を考えていないか社会で生きるためにマスクをつけて自分を偽っていないか、時にはそれを外してみる勇気を持とうよ、といったことが詩的な文章でまとめられている。

 マスター・ヨーダは、ダース・ベイダーは暗黒面の方が強いのかというルークの問いに、ダークサイドの方が入りやすいのだ、と言っている。悪の道というのは急な下り坂のようなものだ。一旦転べば、簡単に落ちてしまう。しかしそこへ落ち、たくさんの失敗をした人生には学ぶべきことがある。

 僕らに予知能力はないし、手を触れずにものを動かしたり、ライトセーバーを手に戦うこともできない。ましてや人の心を読み取ったり、操ることだってできやしない。けれど、フォースはこの世界に満ち満ちているのだ、ということをダース・ベイダーは思い出させてくれる。この本を読んでフォースの流れを感じられたら、この言葉を胸に、それぞれの世界で勇敢に戦って欲しい。

May The Force Be With You!

文=成田全(ナリタタモツ)