「同調力」が教室でモノをいう…イジメの起因ともなる“スクールカースト”の構造

社会

2015/11/13


『スクールカーストの正体: キレイゴト抜きのいじめ対応』(堀 裕嗣/小学館)

 「スクールカースト」という用語が、教育関係者のみならず、一般にも知られるようになった。ピラミッド型を成す「スクールカースト」は別名「学級内ステイタス」とも呼ばれ、子どもたちを無意識の階級闘争に追い込む。中高生たちはカーストという「明確に格付けされた枠組み」の中で、圧迫された学校生活を送っている。

 『スクールカーストの正体: キレイゴト抜きのいじめ対応』(堀 裕嗣/小学館)の著者であり中学校の教諭でもある堀 裕嗣氏は、会社にも職員室にもカーストは存在するが、「スクールカースト」の特殊性は「一日中我慢を強いられること」だと説く。学校内で対面し、学校外でもLINEやSNSなどで終日拘束。「既読無視」や「空気が読めない返信」で、仲間はずしや集団無視などイジメの起因にもなる。カーストから一時的にすら逃れられない生徒の苦しみは計り知れない。

 本書では、「スクールカースト」の構造を分析している。21世紀に入って「コミュニケーション能力」の重要性がうたわれるようになったが、本書によると「コミュニケーション能力」は「自己主張力」「同調力」「共感力」の総合力だとする。

【自己主張力】
自分の意見をしっかりと主張することができ、他人のネガティヴな言動、ネガティヴな態度に対してしっかりと戒めることのできる力。

【同調力】
「場の空気」に応じてボケたりツッコミを入れて盛り上げたりしながら、常に明るい雰囲気を形成する能力。

【共感力】
他人に対して思いやりをもち、他人の立場や状況に応じて考えることのできる力。

 この3つの力を満たした「コミュニケーション能力の高い生徒」は、「スクールカースト」の最上位である「スーパーリーダー」になり得る。

「スクールカースト」の構造は、次のようになっているという。

【ピラミッドの最上位】

・スーパーリーダー型生徒…自己主張力、同調力、共感力をもつ。一般的に、3月下旬の学級編制会議で各学級に男女各1名のリーダー生徒を配する必要があるといわれているが、現在の学校ではリーダーにもっとも据えたいこのタイプの生徒が不足している。1学級にごくたまに1人存在する。

【上から2段目】

残虐リーダー型生徒…自己主張力と同調力をもつ。イジメ首謀者となる場合が多い。暴力的であったり授業を壊したり、マジメな生徒を力で圧したりする、といった性質ではなく、むしろ花形運動部の中心選手であったり、成績が良い生徒であったりする場合が珍しくない。テレビ司会者のように他人をいじりながら人間関係を築こうとし、悪意がないままイジメに近い動きをしてしまう場合が少なくない。1学級に1~3人程度存在する。

・孤高派タイプ生徒…自己主張力と共感力をもつ。自分をしっかりともっていて他人の気持ちを理解し、ときに優しさも示すが、周りのノリに合わせることはほとんどない。人付き合いはよくないが、能力が高いために「残虐リーダー型生徒」からも一目置かれる存在。1学級に0~3人程度存在。

【上から3段目】

人望あるサブリーダー型生徒…同調力と共感力をもつ。学級担任から「いい子」と評価されるタイプ。他人がいやがることをせず、信望が厚くて仲間も多い。「残虐リーダー型生徒」にいじられても軽く受け流すことができ、集団のノリに合わせることもできるので、イジメの対象になりにくい。1学級に2~5人程度存在。

【上から4段目】

お調子者タイプ生徒…同調力のみをもつ。残虐リーダー型生徒の動きに同調してイジメが集団化する場合が多い。1学級に15~30人程度存在し、現代の生徒たちの主流派といえる。その場の「空気」を的確に察知し、自分の居場所を確保することに長けている。

・いいヤツタイプ生徒…共感力のみをもつ。優しく、おとなしいタイプ。教師からは好感をもたれているが、「残虐リーダー型生徒」や「お調子者タイプ生徒」からは「悪いヤツではないけれど、やることがトロい」と見なされ、日常的なイジリの対象となっていることが多い。1学級に2~8人程度存在。

【最下段】

・自己チュータイプ生徒…自己主張力のみをもつ。自分の趣味・嗜好、自分の立場の正当性だけを主張するので、周りからはワガママに見え、嫌われやすい。新しい学級で、まずイジメのターゲットとされるタイプだが、正面から闘うので、次第に「アイツとかかわると面倒くさい」と避けられるようになっていく。やがて、ヤンキー色を強めていき、強烈な「残虐リーダー型生徒」になる場合がある。1学級に5~10人程度存在。

・何を考えているかわからないタイプ生徒…どれももたない。「発達障がい」と呼ばれる、多動系、自閉系などの傾向がある。1学級に2~8人程度存在。

 この構造を見て気づいたかもしれないが、「自己主張力」「同調力」「共感力」の3要素の中で、「共感力」はそれほど力を発揮しない。「スクールカースト」の決定要因としてもっとも順位が高いのは「同調力」。みんなと一緒に盛り上がれる、ノリに合わせられる、ノリを理解できる…つまり「協調性」として理解されているこの要素が、中学校や高校での人間関係力の前提として捉えられているのだ。本書では、近年これほどまでに「同調力」が力をもった背景には、テレビバラエティのひな壇番組やリアクション芸人の影響がある、と分析している。中高生といえば、世間の風や流行にもっとも左右される世代だ。テレビでは、大物司会者がネタを振り、リアクション芸人が“空気を読ん”でそれに応えることで場が盛り上がる。“空気”と呼ばれる不確かなものが過剰なまでに神格化され、それを読めなかったり壊したりした者は、まるで犯罪者のごとく叱責され、排除される。教室では、残虐リーダー型生徒とお調子者タイプ生徒を中心に、そのような仮想バラエティが日常的に行われているというのだ。

 3要素の中で、次に重視されるのは「自己主張力」だ。しかし、これはただ自分の趣味や趣向を主張する“自己チュー”的な力ではなく、他人に影響を与えたり、周りを喜ばせたり、盛り上げたりできるような力を指す。本書によると、80年代以降に偏差値偏重教育や管理教育への批判から舵を切った「個性重視」の教育がもたらした結果だとみている。今の学校では、ディベートやプレゼンテーションなどで自己主張をする教育が奨励されている。生徒間では、他人に影響を与える「自己主張力」は正義なのだ。

 そして、3要素でもっとも価値が置かれていないのが、戦後民主主義教育で一番に重視されてきた「共感力」。本書によると、現在の道徳教育は規範意識の醸成ばかりが叫ばれている。道徳の根本である「人の痛みや悲しみに共感する力」が欠落している生徒が増えてきているのだ。「スクールカースト」の中で生きる生徒たちには、「共感力」はあったほうがいいが、「同調力」や「自己主張力」のほど重要性は見出せない、という実態があらわになってくる。

 イジメを解決するときに、大人が生徒間に強引に入ることで、さらに深刻化する場合があることを、本書ではいくつかの事例で示している。生徒や子どもへ適切な対応をするためには、大人には実態が見えにくい「スクールカースト」の構造や性質を理解することも重要だと述べている。

文=ルートつつみ