セキセイインコはまさかの鷲づかみ! 大まじめな生きものの持ち方指南書

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/17


『その道のプロに聞く生きものの持ちかた』(松橋利光/大和書房)

 生後間もない赤ちゃんを抱くときはもちろん、子犬や子猫を抱くときもどうやって抱くのが正しいのか迷う時がある。これがうさぎや小鳥、カブトムシとなると、ますますどうやって持つのが正しいのかわからなくなるのではないだろうか。今回取り上げる『その道のプロに聞く生きものの持ちかた』(松橋利光/大和書房)は、哺乳類だけでなく、鳥類、爬虫類、昆虫までどうやって持ったらよいのかをわかりやすく教えてくれる本だ。持ちかたを教えてくれるのは、獣医、動物カメラマン、ペットショップオーナーなどその道のプロと言える人々。どんな生きものをどんな風に持たせてくれるのか、中身をちょっと見てみよう。

 この本で持ちかたがわかる生きものは全部で86種類。だから、この本を片手に生きものに触れていけば、犬・猫のようなペットや昆虫採集で捕まえるチョウ・トンボから、よほどのことがない限り触る機会にも恵まれなそうなサソリやタランチュラまで、ありとあらゆる生きものが正しく持てるようになる。

 とはいうものの、この本を見ると、チョウやトンボも種類によって微妙に持つところが違うことがわかる。何しろバッタの仲間など、羽の横を持つタイプと足を持たなければいけないタイプがいるのだから、細かく種類も覚えなければ、持つ以前に手も出せそうにない。そう、この本をしっかり読んでいくと、ありとあらゆる生きものの種類が気になってしまい、載っていないやつに出会ったらどうやって持てばいいんだ? という疑問も湧いてきてしまう。

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 中でもカニやカエルは種類によって持つ場所だけでなく持つ方向や持ちかたそのものまで違うということがわかった。特にカエルの方は、手でつかんではいけないものまでいる。アズマヒキガエルは頭の近くから毒を出すためお尻の近くを横からしっかりと、ツチガエルは前足の付け根辺りを軽くつまむ感じで、トウキョウダルマガエルはジャンプして逃げられないようにお腹の周りをギュッと握るように、そして小さなニホンアマガエルは両手で優しく包み込むように、と持ちかたに大きな違いがあるのだ。これはもう持ちかたを覚えるより先に、カエルの種類をきちんと見分けられるようにならなければならないようだ。

 また、この本の中には、先に挙げたサソリやタランチュラ以上に持ちかたを教えられても絶対に持つ機会がないだろうという生きものがいた。巨大なマダガスカルゴキブリだ。日本に生息するゴキブリでも持ちたくないのに、マダガスカルのは巨大すぎる。出会ったときには、手で持ちに行かず巨大スリッパで撃退したいところだ。この他にも出会いたくないといえば、応用編の危険動物として載っていたアナコンダ。こいつにもできれば一生出会わずに済ませたい。

 一方、身近な生きものの中には、知っていそうで意外と正しい持ちかたを知らない生きものが何種類もあった。その中でも多くの人が間違えているだろうと感じたのはカブトムシの幼虫だ。カブトムシは成虫も間違った持ちかたをしている人が多そうだが、幼虫の方はおそらくほとんどの人が間違っているだろう。まさかあんな風に持つとはね…という感じだった。

 まさかあんな持ちかたをするとは…といえば、セキセイインコの持ちかたも意外だった。セキセイインコは手乗りインコのイメージだから、指の上にチョンと止まらせるのが正しい持ちかただと思っていたのだが、まさかのわしづかみ。セキセイインコだからインコづかみというのだろうか? ボールを持つようにしっかり手で握って持つのが正しい持ちかたなんて考えてもみなかった。とにかく手乗りインコ改め握りインコというイメージの写真は衝撃的だった。

 このようにただひたすら正しい持ちかたが紹介されているだけの本なのだが、なぜそのような持ちかたをしなければならないのかという説明がしっかりされている。だから、最初から最後まで見ていくと、思った以上に読みごたえがある。持ちかたから生きものそれぞれの性質がわかり、持ちかた以外にももっとその生きものについて深く知りたいと感じさせてくれる不思議な一冊だった。

文=大石みずき