地球上の全ての氷が溶けたなら、自由の女神は半身浴 ―地球の現実をひと目で表す図鑑がスゴい

社会

公開日:2015/11/24


『信じられない現実の大図鑑 』(ドーリング・キンダースリー:著・編集、増田まもる:監修・翻訳/東京書籍)

 いろいろなジャンルの本がある中で、「図鑑が好き」という人は老若男女問わずかなり多くいるのではないだろうか。写真やイラストが多く、パラパラとめくっていくだけでも楽しめる。とはいっても図鑑の種類は多く、本当に知りたいことをわかりやすく教えてくれる図鑑は意外と少ないのかもしれない。楽しいだけではなく、「なるほど」と感じることが多い図鑑ほどおもしろい。他の図鑑とは明らかに異なった見せ方をしている『信じられない現実の大図鑑 』(ドーリング・キンダースリー:著・編集、増田まもる:監修・翻訳/東京書籍)をご紹介したい。

身の回りの現実をわかりやすくビジュアル化

 図鑑にはいろいろな見せ方があるが、この図鑑の場合、説明的な言葉をすべて目で見てわかるようにイラストで表している点が特徴的だ。宇宙、地球、生物、先端技術とテーマを4つにわけたうえで、大きさ、高さ、深さ、長さ、重さ、速さ、多さなどを一目で直感的にわかるようにビジュアル化している。例えば「最大の卵を産む鳥はどの鳥?」というテーマでは20種類の卵が並べられているのだが、単純に大きさ順に並べられているのではない。見開きページにランダムに配置されていて、大きさの違いが一目瞭然でわかるようになっている。しかも、一般的な図鑑であればダチョウの卵を最大とするのだろうが、この図鑑では17世紀に絶滅したエピオルニスの卵が最大の卵として紹介されている。ダチョウの卵の11個分にも相当する大きさは圧巻だ。

高さや深さの見せ方が抜群!

 一目で見てわかるように表現するといっても、たくさんのものをただ単純に並べて見せるだけではわかりにくいものもある。例えば、滝の落差や山の高さ、湖の大きさなどだ。世界中に点在する山の高さや滝の落差は山や滝の形と数字だけで表現されることが多いが、この図鑑では、山や滝は海抜0mの部分から切り取ってきて土台を揃えてから横に並べて高さや落差を比べている。こうして見ると、大きいはずのナイアガラの滝がとてもちっぽけに見えるのが不思議だ。また、山も我々が山として認識している部分よりもその山がある国の標高が山の高さに影響していることがよくわかる。さらに、湖の大きさというと、面積や深さで比べることが多いが、この図鑑では容積で比較している。そのため、面積だけでなく深さもわかるように水の塊として切り出して並べているのが特徴だ。このような比較の仕方をすると、細長く面積の小さいバイカル湖は、アメリカの五大湖が束になってかかってもいっぱいにすることができないほど深いということがよくわかる。他の図鑑にはないおもしろい見せ方だ。

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目に見えるように突きつけられると現実の厳しさがわかる

 この図鑑は『信じられない現実の大図鑑 』というタイトルが示す通り、地球が置かれた厳しい現実について表現している部分も多いのが特徴だ。例えば、「地球上に水はどれくらいあるか?」ということを一般的な図鑑で表現する場合、グラフで地球の約7割は海だというような見せ方をすることが多いが、この本では、海や川、湖だけでなく、地下水や雲、氷河や北極・南極の氷床まですべて水に置き換え、球状の塊にしたうえで、水を取り除いた地球と並べて見せている。大きさの違いを見ると、地球の表面の7割を覆っているはずの水なのに、あまりにも量が少ないことがよくわかる。

 また、「すべての氷がとけたら?」という部分では、エンパイア・ステート・ビルの18階までが海に沈み、自由の女神が腰まで水に浸かったイラストが描かれている。その傍らにはイギリスを中心としたヨーロッパの地図が掲載されており、現在の海岸線と氷がすべてとけたときの海岸線の違いもわかるようになっている。数字で言われても実感がわかない人でも、国が地図から消えてなくなっている様子を見れば、地球温暖化が進むとどれだけ大変なことになるか感じ取れるのではないだろうか。

子どもから大人まで様々な楽しみ方で読める図鑑

 この図鑑は、子どもから大人まで、読む人によって様々な読み取り方ができる図鑑だ。子どもであれば、宇宙や地球のことも、生き物や最先端技術のことも、興味を持つきっかけにすることができるだろう。言葉で表現されてもわかりにくい部分がダイレクトに伝わってくるからだ。

 一方大人が読むのであれば、子どものころに見た図鑑との違いを大きく感じることだろう。そして、地球が置かれた実情が気になるのではないだろうか。地球温暖化がどれほど切実な状況なのか、人口がこれ以上増えるとどれほど大変なことになるのかなど、世界規模の大問題が数多くあっても、言葉や数字だけで示されると今ひとつピンとこない。難しい言葉でどれだけくどくどと説明されても理解できず、何となくこのままではまずいのだろうと感じながらも、何もアクションを起こせない人が多いことだろう。しかし、子ども目で見てもわかるように表現されているイラストを目にすれば、誰だってこのままではまずいと感じるはずだ。危機感だけをあおる本を手にすると反発したくなる人でも、図鑑の中に示されている事実であれば素直に受け止められるかもしれない。

文=大石みずき