逃げることこそ最高の仕事術 ―上手な逃げ方をマスターするにはどうすればいいのか

仕事術

2015/11/23


『逃げる勇気: 「できる人」は九割を捨て、たった一割で勝負する』(崇 史/新潮社)

 「逃げる」と聞いて、どんなことを連想するだろうか。どちらかといえば、ネガティブな印象が強いかもしれない。ましてや、仕事において逃げるとなれば…下手をすれば負け犬扱いされてしまうのでは、という不安すら感じる。

 そんな不安に反して、『逃げる勇気: 「できる人」は九割を捨て、たった一割で勝負する』(崇 史/新潮社)によれば、うまく逃げることこそが仕事の成功につながるという。

 仕事をする中で、実績に伴って業務量が増えていくのは、よくあること。周囲からの期待の反映でもあるだろうし、本人のやりがいにつながる場合も少なくない。しかし、一人でやれることには必ず限界があり、量をこなそうとすれば質が落ちる可能性が高いことは否めない。そこで、物理的な業務量が増えた時に、効率的に質の良い仕事をするために大切なのが、「逃げる勇気」なのだ。

 本書では、まず、うまく逃げられない人の傾向や原因を、具体的な例を挙げて説明している。ひとつ例を挙げると、他人からのお願いを断れず、対応しようとして仕事のクオリティが下がってしまうケース。このような人は、他人からの評価を気にするがあまり、「NO」と言うことを恐れてしまうと指摘している。

 では、そのような人が逃げるためには、どうしたらいいのだろうか? 答えは、「心の持ち方」を変えること。「NO」と言えない人は、他人から嫌われることや失望されることを恐れて、相手の期待に応えようとする。しかし、そもそも期待するというのは主観的な行為であり、他人の期待に完全に沿うことは不可能だ。それに、期待に応えられないからといって、必ずしも嫌われたり失望されたりするとは限らない。逆の立場で考えれば、特に無理なお願いをした場合は、断られても納得できるだろうし、むしろ引き受けてくれたら驚くこともあるだろう。

 このように、逃げるためには考え方や物事の見方を変えることが大切だが、「上手に」逃げるためには、テクニックが必要。まず、頼まれた仕事が自分にできるのかを客観的に判断する。著者は、時間の余裕、頼まれた仕事の難易度など、軸をいくつか設定して、マトリックスを作成している。そのうえで、断るべきだと判断した場合には、断り方に気を配る。まずは丁寧に断ること。次に、依頼してくれたことへの感謝、本当は役に立ちたいと思っていることなど、ポジティブなことを伝えてから、最後に対応できない理由を説明するのだ。

 しかし、こうやって逃げていいのは九割の仕事。著者によると、仕事で成功を収めるためには、絶対に逃げてはいけない一割のことがあるという。この一割とは、自分が好きなことで努力をするのが苦でなく、人よりうまくやれることだ。つまり、逃げるべきことを特定して上手に逃げる一方で、自分が「好きで得意」なことを見つけることが、同じくらい重要なのだ。

 好きで得意な一割を見つけるのは簡単なことではないだろう。しかし、九割から上手に逃げるテクニックを身につけ、情熱を傾けられる一割で勝負できれば、大きな成功につながるかもしれない。好きなことがそのまま仕事にならなくても、仕事の中に一割、好きで得意なことを見つけるのは不可能ではないような気がする。自分の周りで成功している人が、どんな一割で勝負をしているのか、他の九割からどうやって逃げているのか、観察してみるのも参考になりそうだ。

文=松澤友子