超人気声優・小野大輔さんの、命よりも大切なものが消えた!? オーディオブック『世界から猫が消えたなら』配信記念・独占インタビュー

エンタメ

2015/11/25

声優・小野大輔さん

 もしも自分の寿命が残り1日なら。けれど悪魔と取り引きすることで寿命を延ばすことができたなら……。小説『世界から猫が消えたなら』(川村元気)はちょっとシュールだけど心に響く作品。すでに90万部を突破する大ヒットを遂げている。2016年には佐藤健・宮﨑あおいの初共演で映画公開も決定。様々なメディア展開するなか、この度オーディオブックが登場した。

 オーディオブック配信サービスFeBeが手がけた『世界から猫が消えたなら』は、小説・映画とはまた異なる感動を与えてくれる作品となっている。11月13日に配信を記念して、作者・川村元気さんと主演の小野大輔さんが記者会見を行った。その会見前に当記事のためだけに、小野大輔さんが独占インタビューに応じてくれた!

音でしか表現できないことを小野さんが実現!

 会見では川村さんが小野さんの演技を絶賛。「映画なら映画でしかできないこと、音声なら音でしかできないものをつくりたかった」という川村さん。その期待に見事に応えてくれたのが小野さんの演技だ。主人公の僕と悪魔、そしてストーリーテラーである地の文。3つの声と要素を一人で演じ分けたのだ。

「コミカルな役もカッコイイ役も両方演じられるので、本当に小野さんにお願いして良かった。でも両極を演じ分けているだけではなくて。作品に登場する悪魔は、“僕”と同一人物でもあります。最初別々だった人物は、ストーリーが進むにつれて、同一化してくるんです。それを意識して小説の後半では、口調を書き分けたりしていました。それがまさに感じられる演技でした」(川村さん)

 小野大輔さんといえば、『黒執事』のセバスチャン、『ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース』の空条承太郎などを演じた超人気声優。オファーする際は “ダメもと”で依頼したそうだが、周囲の手助けもあり出現が実現したという。以下は小野さんからのお話だ。

余命宣告されても小野さんは平気?

「あるとき、マネージャーから“折り入って話があります”と言われまして。しかも事務所ではなく外の喫茶店に場所を変えて。何かと身構えていたら、この『世界から猫が消えたなら』のオファーが来ていると。“ぜひお願いしたい”と言われまして。並々ならぬ気持ちでお願いしてくれたのが感じられて、ふたつ返事で引き受けました。マネージャーをここまで真摯にさせたのは、きっと作品の持つ普遍的な魅力だと思うんですよね」(小野さん、以下同)

 ときに切なく、けれど温かい気持ちにもなるこの小説を、小野さんも読んですぐに引きつけられたという。役のイメージも同時にわき上がってきた。

「作中の“僕”は、30代の郵便局員。自分も今、37歳。職業は役者でまったく違いますが、同じ30数年を生きてきて、その間いろんなことを経験して。そして“僕”は、死という壁に直面して。自分に置き換えやすかったです。僕も“僕”と同じように、“もうすぐ死ぬのかな”ってフラットに考えると思うので。いや、死にたくはないですよ(笑)」

 死を間際にして、主人公はとても冷静に残された時間について思いを馳せる。その淡々とした人物像がこのオーディオブック軸でもあり、大きな感動を引き寄せる仕掛けとなっている。聞く人を巧みに誘導する演出は、小野さんのこだわりだ。

「物語が進むにつれて、周囲がどんどん変わっていくんですね。悪魔と取り引きすることによって。けれど主人公の“僕”って変わらないんですよ。感情が大きく爆発することはなく、すごく静かな感情の変化があるだけです。読者からすると感情が高まるシーンもあります。けれどそのときの“僕”は、興奮といった感情の“発露”というよりも、“気付き”を得ていると解釈しました。だから演じるうえでは、特別にテンションを高めたりはしていません」

 印象的なシーンをさらにインパクトを与えるにはどう演じればいいのか。熟練の域まで達した小野さんの演技は、オーディオブックの聞き所であり、感動をより強いものへと引き上げている。

一人三役を同時収録した “神ワザ”

 朗読劇としてのおもしろさは、さらに小野さんの渾身の収録方法からも醸し出されている。前述の通り、主人公の“僕”、そして“僕”そっくりの悪魔、さらに物語をつむぐ地の文の3つを一人で演じている。しかもそれらを、別テイクではなく、同時進行で録音したのだ。

「本当は、“僕”と悪魔を分けて録るかスタッフさんに聞かれていたんです。でも、どうしても一緒に演じたくて。自分とまったく同じ声帯の同じ顔のヤツが会話をしてくるって、こんなに怖いことないですよね。その不気味さというか不思議さ。別々に録音したら、物理的に別々の人物がしゃべっているように、聞こえてしまうと思うんです。ワガママを言わせてもらって、あえて同時収録しました」

 普段の会話を想像するとわかることだが、会話とは言葉のキャッチボールでもあり、わずかに重なる部分もある。語尾を待たずに言葉を被せたりと。いかに自然に会話するのか苦心したという。

 さらに小野さんの演技のすごさを感じられるのが、セリフ以外の地の文だ。

「悪魔も“僕”であり、地の文も実は“僕”なのですよね。第三者目線というか、神のように物語を俯瞰して見ているのですが、“僕”の思考でもあります。3者のバランスを取ることが難しかったです。悪魔が“次は何を消すと思います?”って、意地悪く仕掛けるのも自分。それにショックを受けるのも自分。さらにお話をつむいでいくのも自分。しんどいとも思いましたが、想像以上に楽しくて。とても良い経験をさせてもらいました」

 元より演技力に定評があったため、川村さんから直々に指名を受けた小野さん。作品も持つ滑稽さや不条理さ、心を揺さぶる力が一層感じられるだろう。

小野さんを絶望させたこととは…?

 作品では、寿命を延ばすために何かを消すことを悪魔に要求される。小野さんが絶対に消して欲しくないものは何か?

「難しいですね。物語では、自分にとって大切で自分を形づくってくれたものしか悪魔は消してくれないのですよね。そう考えると僕の場合“声”でしょうか。声がなくなったらその瞬間に僕は役立たずになりますから」

 命と同じくらい大切な小野さんの声だが、実は一度なくした経験があるという。

「原因不明で、2週間くらい声が出ない時期がありました。その当時は風邪を引いていたこともあったのですが、全然治らなくて。お医者さんには“声帯 はもう普通に戻っているよ”と言われても出せなくって。そのとき本当に僕は役立たずだと思いましたね……。すみません、声をなくすと思うと今何も考えられなくなりました!」

 かつて絶望を経験したからこそ、今の当たり前の日々に邁進できる。真摯に答えてくれたその姿から、なぜ今の “小野大輔”があるのか。その背景をほんの少し見えた気がする。

 では縁起でもない質問だが、死ぬ前にやっておきたいこととは何だろうか。

「僕を形づくってくれたのは、僕ではなく周りの人です。僕が今こうして仕事ができているってことは、みなさんが素晴らしいためです。だから、僕が残すことは何もないです。今、死んだとしても“あの人は駆けつけてくれるだろう、あの人は心から悲しんでくれるだろうな”、そんな確信にも似た思いもありますし」

 しかし周囲の人からもらったことを自分もだれかへ渡したい気持ちがあるとも言う。

「僕は先輩にかわいがってもらって、仕事をいただけた部分もあるんです。本当に周りに恵まれていました。だから僕も後輩になにか伝えることができたらいいなって。演技で悩んでいる後輩にちょっとしたアドバイスをすると、期待以上に応えてくれたときなどは嬉しいですね。でも後輩から学ぶことも多いんですよ。最近では、ひとまわり下の内山昂輝くんの演技に驚かされましたし」

 確固たる地位を確立しても成長し続け、そして自分の経験を次の世代へもつないでいく。完ぺきで聖人のような小野さんに少々意地悪な質問をしてみた。
 死ぬまでに隠しておきたいものや、なかったことにしたいことはないのか、と。

「もちろん恥ずかしいものもいっぱいありますよ(笑)。でもそれも含めて僕なので。死後に見つかってもいいんじゃないですか」
 傑物はやはり一枚も二枚も上手であった。

 ここまで長編の朗読でかつ、難役に挑んだのは『世界から猫が消えたなら』が初めてだという。小野さんのポテンシャルが充分に発揮された作品は、ぜひともオーディオで確かめてみてはどうだろうか。

小野大輔さんからのボイスメッセージが聞ける!

オーディオブック『世界から猫が消えたなら』特設ページ

■好評配信中

オーディオブック『世界から猫が消えたなら
全5時間34分/1512円(税込み)
※オーディオブック購入特典として、川村元気氏と小野大輔氏の特別対談音声を収録。
※2015年12月15日までの購入者の中から抽選で4名様に小野大輔氏・川村元気氏の寄せ書きサイン色紙をプレゼント!

取材・文=武藤徉子