戦隊ショーの悪役、独身男がいきなり小2孤児の“父”に! 2人を結ぶ「母のジャム」にホロリ

文芸・カルチャー

2015/11/23

 家族とはなんだろう。多くの人にとって、あって当たり前の空気みたいな存在だろう。特にありがたいとは思わないが、なくなることなんて考えられない。自分ひとり取り残されるなんて、想像できないし、もしもそんなことが起こったら、生きていくのが嫌になってしまいそうだ。

 『ジャパン・ディグニティ』(産業編集センター)で「暮らしの小説大賞」を受賞した髙森美由紀氏待望の第2作『おひさまジャム果風堂』の主人公は、まさにそんな「取り残されてしまった男」だ。東北地方の片田舎にあるひなびた遊園地で、戦隊ショーの悪役を生業としている拓真は、9歳で父を亡くし、その約10年後に母を亡くし、そのまま淡々と生家でひとり、暮らしている。家族はおろか彼女もおらず、毎日関わる人間は、戦隊ショーの出演者くらい…。家族運がないというのか人との縁に恵まれていないというのか。そして27歳にして、母親が死んで以来ほとんど連絡をとっていなかったとはいえ、唯一の肉親である妹まで逝ってしまう。ついに天涯孤独かと思いきや、なんと妹には子供がいたのだ、父親が誰かわからない8歳の昌が。

 この設定、「子供に振り回される大人のドタバタな日常を描いたコメディ」といった展開を思い浮かべてしまがちだ。けれどこの物語は、そんな予想をいい意味で裏切る。大人と子供のスタンスが普通じゃないのだ。27歳の拓真が、底抜けに明るく能天気なのに比べて、小2の昌はゾンビを倒すゲームにのみ熱くなる、無表情な子供。大人の拓真が天真爛漫に子供の昌にじゃれかかり、昌が戸惑いつつあしらうといった具合で、どっちが大人なのかわからない。それでいて拓真の昌に対する観察眼はとても鋭い。拓真の目を通して昌の様子、思いが丁寧に繊細に綴られる。

 全く感情を見せなかった晶が、食べ物を通して少しずつ人間らしく、子供らしくなっていく姿は、ほのぼのと愛おしい。不思議なのはこんなに細やかに子供の気持ちがつかめる拓真の行動や発言が、時にあまりに大げさで不自然なことだ。「あまりにバカすぎて、本当に27歳?」と思うほど。彼の能天気で薄っぺらい姿はしかし、その裏に秘められた彼の本心を鮮やかに浮き上がらせるための伏線で、それがわかった時思わず泣けてしまった。表面的すぎる違和感がさらりと解消されて、だからこそ何の迷いもなく昌を引き取ったのだ、ということまで、すっきりと納得できる。嫌なこと、辛いことが多い人生だけど、自分もちゃんと前を向いて生きてみようかな…。そんな気持ちにさせてくれる、まさに「おひさま」のような暖かさに満ちた物語だ。

 彼ら以外の登場人物たちもハートフルで魅力的だが、何より気になるのは、登場する食べ物の数々。簡単なささみのサラダから始まって、カレー、オムレツ、フレンチトースト…。そのどれもが本当に色鮮やかに描かれている。そしてジャム。死んでしまった母、妹そして生きている自分たちをつなぐ大切な思い出の一品でもあるのだが、その描写の細やかなこと! 煮ているジャムの香りまで感じられるほどだ。衣、食、住にまつわることをテーマにする「暮らしの小説大賞」受賞作家らしい、圧倒的においしそうな描写力はさすが。読後思わずジャムが作りたくなってしまうこと、うけあいだ。

文=yuyakana